“不毛の地”を返上!勢いに乗る名大発スタートアップ、起業のエコシステム形成なるか

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ビジネスプランコンテスト「トンガリ賞」を受賞した5チームの代表

“スタートアップ不毛の地”とやゆされ続けた名古屋で今、起業の波が押し寄せている。その中心を担う名古屋大学では、起業家育成プロジェクト「Tongali(トンガリ)」で起業家教育から起業準備、起業後の事業展開までをシームレスに支援。4月時点で現存企業数は103件と、52件だった2013年と比べ約2倍になった。勢いに乗る名大発スタートアップの現状に迫った。(名古屋・浜田ひかる、名古屋編集委員・村国哲也)

身近な経験、ビジネスの種

「ようやくスタートラインに立てた」―。10月10日に開催された「トンガリビジネスプランコンテスト」。台風で天候が大荒れとなる中、予選を通過した14チームが決勝に出場。その頂点に立ったチームの代表である名大大学院情報科学研究科2年の渡辺智基さんは、ほっとした表情を見せた。大学から大学院で専攻が変わりその都度、専門用語に苦労した経験から開発した、専門語彙(ごい)学習アプリケーション(応用ソフト)「Word−StockPro」が審査員の目にとまった。

トンガリビジコンは起業の“一歩手前”に位置する大会。起業の実践の場として、ビジネスプランをアクセラレーターやベンチャーキャピタリストらからなる審査員にプレゼンテーションを実施。優秀なビジネスプラン発表を行った5チームを表彰し、受賞チームには5カ月間のメンタリングや活動資金などが付与される。SMBC日興証券や大和証券など9社が協賛した。

受賞したビジネスプランでは、学生の身近な課題から生まれたアイデアが上位を占めた。2位の豊橋技術科学大学大学院工学研究科1年の前川啓一郎さんらのチームのプランは研究機器の自動化アタッチメントデバイスを開発するもので、新型コロナウイルス感染症の拡大で研究が滞ったことを受け発案。3位の名大大学院工学研究科1年の犬飼大樹さんらのチームも、実験時の苦労を少しでも減らせる保護メガネを発表した。

市街地でオープンイノベーション

名大は16年度に、起業家精神(アントレプレナーシップ)を育成するトンガリを豊橋技科大、名古屋工業大学、岐阜大学、三重大学の東海地区の5大学で開始。講義や研修、ビジコンなどを通じ起業への意欲とスキルを高め起業や起業後の事業展開までを後押しする。

講義・研修などへの延べ参加者数は、16年度の75人が19年度には208人へ増加。プロジェクトへの参加大学も年々増え、19年度には名城大学、中京大学、藤田医科大学が、20年度からは名古屋市立大学も加わった。また大阪大学、熊本大学も協力・連携機関として名を連ねる。

スタート時の5校は、大学発ベンチャーファンド(VC)も運営している。15年に設立し、現在までに16社計約15億円を投資。19年度からは総額20億円の2号ファンド運営も開始した。これとは別に、1件上限200万円の起業準備資金も提供している。

名大独自の支援策もある。16年から「名古屋大学発ベンチャー」の称号を授与する制度を制定。10月時点で54社を認定した。称号を得た企業は商談が増加するなどブランド力向上に一役買っている。

活動拠点も用意している。学内にはインキュベーション施設があり、JR名古屋駅直結の好立地にもオープンイノベーション拠点「OICX」を構える。多くの名大発スタートアップが集う場となっている。

オープンイノベーション拠点「OICX」

広がる研究者の選択肢 研究成果、社会に実装

オプティマインド(名古屋市中区)の松下健社長は「大学1年生の時に出会った『組み合わせ最適化』を社会実装したい」と、起業を選択した。

同社は配送ルートの最適化システム「ルージア」を開発・販売するSaaS(ソフトウエアのサービス提供)企業。19年にはトヨタ自動車やKDDIなどから約10億円の資金調達に成功。今では一目置かれる存在だ。

研究者が研究成果を社会実装するため起業するケースも多い。宇治原徹教授は自身の放熱性を高める窒化アルミニウム「サーマルナイト」の研究成果を基にU―MAP(ユーマップ、名古屋市千種区)を、素材開発に人工知能(AI)を活用する研究などを基にアイクリスタル(名古屋市千種区)を、それぞれ設立した。また野田口理孝准教授は、タバコの茎を使い異種の植物同士を組み合わせる「接ぎ木」の研究成果から新種苗開発などの研究を手がけるグランドグリーン(同)を起業した。

ただ課題もある。資金調達一覧を掲載するウェブサイト「スタートアップDB」によると、名大発スタートアップのほとんどが投資ラウンド初期段階に位置する「シード」もしくは「ステージA」。事業が軌道に乗り始めた「ステージB」以降に該当する企業はほとんどない。名大学術研究・産学官連携推進本部の河野廉教授は「起業のきっかけが少なすぎる」と指摘する。

一方、若手起業家が次世代の起業家を育てる動きがある。19年に豊田合成から出資を受けたトライエッティング(名古屋市中区)の長江祐樹社長は「創業時から名大生をインターンで受け入れ、育ててきた」と語る。そこからアカンパニー(同中村区)の高橋亮祐社長や、ジークス(同)の村上嘉一社長らが起業。彼らもまた、拠点とするOICX内で“後輩”を育てる。

名古屋には自動車産業をはじめ、グローバルで事業展開する製造業が多く集積する。製造業の集積という“地の利”をどう生かし、スタートアップとつなげるかが、起業家のエコシステム(生態系)形成を加速するカギになりそうだ。

ビジネスプランコンテストの決勝

インタビュー/名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部教授 河野廉氏 学生に新たな「教育の場」

16年にスタートしたトンガリ。その旗振り役を務める名大学術研究・産学官連携推進本部の河野廉教授にトンガリでの取り組みと抱える課題を聞いた。

―プロジェクトを発足した経緯を教えてください。

「学生に対し、起業家精神を育成する『教育の場』を提供するためだ。研修やビジネスプランコンテストを通じて、チャレンジしたい学生を支援している」

―課題は。

「課題は多い。中でもシード・ステージAからステージB、ステージCへ育成できる制度づくりが喫緊の課題だ。そのために別途、新たな機関の立ち上げが必要だと考える。例えば、フランスのインキュベーション施設『ステーションF』の“いいとこ取り”をしつつ、起業を支えるエコシステムを形成していく必要がある」

ビジネスプランコンテストの決勝のプレゼン

日刊工業新聞2020年11月5日

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