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切りくずを見れば作業者のレベルがわかるのはどうして?

工作機械産業に関連したおすすめ書籍 【まずここから!入門編】

11月8日から13日までの6日間、東京ビッグサイトで4年ぶりのリアル開催となる日本国際工作機械見本市・JIMTOFが行われます。さまざまな工作機械、機械工具、機械部品などが展示され、国内外から来場者が集まります。日刊工業新聞社が発行している書籍の中から、工作機械産業に関連した特におすすめの書籍を<まずここから!入門編><現場で活かす!技術編><知識の幅を広げる!発展編>として紹介します。

 今回は「まずここから!入門編」です。機械加工の原理から実作業を理解する『わかる!使える!機械加工入門<基礎知識><段取り><実作業>』(澤武一著)の一部を紹介します。
 機械加工は、工業製品を作るために欠かせない加工技術です。精度の高い加工品を作るためには、機械の操作を覚えるだけではなく、加工の仕組みを理解し、出来上がりをイメージすることが大事になってきます。機械加工で注目すべきポイントが、この一冊で分かります。

切りくずからわかる情報(切りくずは大切な情報源)

1.切りくずの色

図1に、切りくずの色と切削温度の関係を示します。鉄鋼材料を大気中で加熱すると、鉄鋼が酸化し、表面には酸化皮膜が生成されます。この酸化皮膜の厚さは加熱温度と加熱時間に比例します。そして、酸化皮膜の厚さによって色が変化して見えます。この色を干渉色といい、空に発生する虹やシャボン玉、水面上の油膜、CDやDVDの表面、くじゃくの羽根、真珠なども干渉色の代表例です。

図1 切りくずの色と切削温度の関係(鉄鋼)
2.干渉色の原理

酸化皮膜に光が入ると、一部の光は酸化皮膜の表面で反射し、その他の光は酸化皮膜の表面を通り抜け鉄鋼材料の表面で反射します。つまり、2通りの反射をしており、酸化皮膜の厚さに応じて特定の色の光だけが強められる結果、その色に見えるということです。酸化被膜自体は無色透明です。切りくずも酸化被膜の厚さによって色が変化するため、酸化被膜が厚い、言い換えれば切削点温度が高い場合は青く見え、反対に、酸化被膜が薄い、言い換えれば切削点温度が低い場合は黄色く見えます。つまり、「切りくずの色」を観察すれば切削点温度が高いか、あるいは低いかを判断することができます。

3.切りくずの厚さ

22頁で解説したように、「切りくずの厚さ」を測定することによって、せん断角を求めることができます。切りくずが薄いほどせん断角は大きく、切りくずが厚いほどせん断角は小さくなります。切りくずの厚さを測定することにより、切削工具の切れ味の良さ(または切削油剤の潤滑効果の高さ)を判断することができます。

4.切りくずのカール半径

図2に示すように、機械加工で発生する切りくずは通常、湾曲した形状になりますが、これは切りくずの表裏で流出速度が異なるためです。切りくずは湾曲が小さい方が表、大きい方(すくい面を流出する側)が裏です。切りくずの表面と裏面の速度差が大きいほどカール半径は小さくなります。言い換えれば、切りくずの裏面の速度が速い、すくい面の摩擦係数が低い(潤滑効果が高い)という評価ができ、「切りくずのカール半径」が小さいほど切削工具の切れ味が高い(または切削油剤の潤滑効果が高い)と判断することができます。

図2 切りくずが湾曲する原理(表裏による速度の違い)
5.切りくずの飛散方向

切りくずの形状や飛散方向は同じ切削工具・同じ加工条件で削っていても変化します。これは切りくずが生成されるときの塑性変形(せん断変形)のわずかな力の差が原因です。しかし、切削点の状態が安定し、切りくずの生成が理想的に行われたとすれば、切りくずの形状はある程度同じ形状になり、ある程度同じ位置に飛散します。この状態は新品の切削工具を使用した直後でよく見られます。つまり、切りくずの飛散方向も切削状態の良否を識別する1つの情報といえます。

要点ノート

切りくずは「くず、ごみ」ではなく、貴重な情報源です。切りくずを見れば作業者のレベルがわかるといわれます。切りくずに注目できる技術者になってください。

(『わかる!使える!機械加工入門』p.26-27より一部抜粋)

書名:わかる!使える!機械加工入門 <基礎知識><段取り><実作業>
 著者名:澤 武一 著
 発行月:2020年10月
 価格:定価(税込)1,980円
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