Zoom・MS・Google…ウェブ会議システムの巨人と棲み分け狙う日本のベンチャー

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医薬向けウェブ会議イメージ(ブイキューブ提供)

国内VB、“IT巨人”と共生

コロナ禍でコミュニケーションツール市場が急拡大している。リードするのはウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を提供する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズや、米マイクロソフト、米グーグルなどIT界の“巨人”だ。日本とはケタ違いの投資で世界市場に攻勢をかけている。電子メールやドキュメント作成などと同様に、サービスを無料提供し、裾野を広げる戦略だ。国内で手がけるベンチャー企業はいかに戦うのか。(小寺貴之)

機能開発競争 資本力勝負に

「マザーマーケットの規模が違う。日本には技術もある。人材もいる。だがカネがない。日本にいる限り、資本力の差で真っ向勝負ができない」と、ブイキューブの間下直晃社長は説明する。

新型コロナウイルス感染拡大で世界的にウェブ会議システムが一気に普及した。ズームの2020年5―7月期売上高は前年同期比4・6倍の6億6352万ドル(約700億円)と急拡大。国内市場も同様で調査会社アイ・ティ・アール(ITR、東京都新宿区)は、国内ウェブ会議システム市場が24年度に19年度比3・3倍の364億円に拡大すると予想。5―10年かかるとみられていた社会の変化が数カ月で進んだ。今後、ウェブ会議を核に文字起こしやテキストチャットなどのコミュニケーションツールが再編されそうだ。

19年にウェブ会議システムの国内市場でトップシェアだったブイキューブは、商材にZoomを加え、自社システムと並行して拡販している。足元で急拡大するコミュニケーションツール市場を確実に刈り取る戦略だ。

ウェブ会議システムでは、機能開発の競争は資本力の勝負になった。米国のITの巨人は世界から人材を集める。ズームも米国で資金を集め、中国で数千人の技術者を抱えて大規模な開発をしていると言われる。間下社長は「こうしたやり方でないと巨人たちとは戦えない」と指摘する。東京大学の松尾豊教授は「ズームは他のツールと比べて技術力が高すぎる。安定性が重要なウェブ会議システムでトップになった」と評価する。

ウェブ会議でヨガ教室。ニッチ分野開拓(ブイキューブ提供)

株主総会・講演会向け作り込み

ネオラボのウェブ会議システム

日本企業は巨人が作るサービスの販売代理店やサービスを応用するシステムインテグレーター(SI)になるのか。代理販売やSIでは、技術開発で巨人と勝負できるほどの利ざやを稼ぐのは容易ではない。それでも、松尾教授は「ビジネスに近づけば近づくほど、ローカライズの余地が大きくなる」と指摘する。会計や人材、名刺の管理など、ビジネス用のSaaS(サービスとしてのソフトウエア)型ベンチャーは伸びている。「コミュニケーションツールも同様」(松尾教授)とみる。

ブイキューブはニッチトップを狙う。株主総会や人事面接、医薬系講演会など、シンプルなウェブ会議では十分でないコミュニケーション需要を取りにいく。間下社長は「議決権行使の仕組みや講演会参加者に何を見せて、裏側で何を共有するのか。シーンごとに求められる機能が変わる」と説明する。求められるコミュニケーションの形に合わせてシステムを作り込む。

ウェブ会議への社会のハードルが下がって市場が広がり、シーンごとに最適なサービスの形が派生していく。間下社長は「大切なのは『ロングテール(少量多品種の商品群)』だ。時価総額数兆円の巨人は難しくても、ニッチトップを集めれば日本で数千億円のユニコーン企業にはなれる」と指摘する。急拡大するコミュニケーションツール市場をいかに切り取るか知恵を絞る。

サポート人海戦術

ネオラボ(東京都新宿区)は、国産のウェブ会議システム「コーリング」を提供する。後発のため1ID月額1500円と他のツールよりも安価に抑えた。岡村哲也最高執行責任者(COO)は「月額800円の事業者もいる。我々は足で稼ぐ」と強調する。

同社が成功事例とするのは農業組合への導入だ。営業担当者が事務所を巡り、システムの立ち上げやパソコンの使い方を教えて回った。

ウェブ会議システムは無料で簡単に始められると言われているものの、自分では利用したことのない人も多い。岡村COOは「むしろ使いこなしている人が少数派。大半は触ったこともない。地方のサービス業など、サポートが必要な人はたくさんいる」と強調する。

こうした顧客は一度、使い方を覚えると同じサービスを使い続けやすい。まだまだ“刈り取り”は終わっていない。「導入が一巡したら機能の差別化勝負になる。この2―3年が勝負」(岡村COO)だ。

ツールの未来は… ビッグデータ活用期待

ウェブ会議システムの普及で、今後期待されるのはコミュニケーションツールのビッグデータ(大量データ)活用だ。音声や表情のデータは、音声認識や表情推定技術の精度を飛躍させることが期待される。自動文字起こしや通訳、接客の満足度推定などのサービス開発が進む。

ELYZA(イライザ、東京都文京区)は日本語用の人工知能(AI)エンジンの提供を始めた。国内最大級の数十ギガバイト(ギガは10億)の日本語データを学習させた。文脈などを加味した、知的処理が可能になる。例えばウェブ会議の議事録を作成する際、音声認識でテキスト化し、その認識ミスを文脈から浮かび上がらせるような処理も可能になる。定型対話はAIが得意とする仕事だ。顧客サポートなどでは、接客用のカンペをウェブ会議の画面に表示することも可能になる。曽根岡侑也社長は「画像や動画でAIが起こしたブレークスルーが自然言語処理でも起きる。最初にサービスを投入して市場を作る」と力を込める。データを持つサービス事業者などと共創型開発事業を始めた。

デバイスにもチャンスはある。八楽(東京都渋谷区)は21年春に会議中の逐次翻訳デバイスを発売する。

同社はSaaS型の翻訳サービスを展開してきた。坂西優社長は「09年の創業以来、無料のグーグル翻訳と比べられてきた。だが社内利用や業界特化の用途は底堅いニーズがある」とデバイス開発の狙いを説明する。坂西社長は「ITの巨人が次に何をするか。横目で見ながら、目の前のニーズに応えていく」という。きめ細かなかじ取りで需要を取り込んでいく。

日刊工業新聞2020年10月23日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

コミュニケーション周りは巨人たちとうまく踊る必要があります。国内にいる限り巨人にはなれないと言われてしまうと辛いものがあります。でも巨人が自分でやらないサービスはたくさんあります。難しいのはハードウエアの開発サイクルよりも速いペースでサービスのゼロ円スイッチが進んでいく点です。ゼロ円の恐怖の先にロングテールがあります。そのロングテールをカスタムで切り取っていく。市場が広がっている時期でないと難しいかもしれませんが、いまは急拡大しています。

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