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自動車生産技術を医療機器製造に生かす!あっぱれ日本のものづくり

自動車生産技術を医療機器製造に生かす!あっぱれ日本のものづくり

マレリが児玉工場に整備した人工呼吸器の生産ライン。自動車部品の生産技術を生かした

日本の新車市場は縮小傾向にあり、国内生産拠点の見直しが続く。自動運転やコネクテッドカーの技術開発が主流となる中、モノづくりは置き去りにされている感もあった。しかし、コロナ禍における医療崩壊の防波堤の一翼を担ったのはモノづくりの知見。国内に生産基盤があったからこそ、未曽有の国難に即応できた。コロナ禍を通じ、各社は日本におけるモノづくりを再定義し始めている。

【簡単ではない】

「(医療機器の生産は)決して簡単なことではない」(豊田章男日本自動車工業会〈自工会〉会長=トヨタ自動車社長)。自動車の生産を通して、命に直結するモノづくりの難しさは業界の誰もが理解している。それでも「医療が崩壊すれば日本は立ち直れなくなるかもしれない」(同)との危機感が、業界の背中を押した。

人工呼吸器や生体情報モニターなどを手がける日本光電。主力の富岡生産センタ(群馬県富岡市)で新型コロナ感染者が発生した。2週間の稼働停止を余儀なくされる。コロナの感染拡大で医療機器の増産要請があった直後の出来事で「片方で増産、もう一方で(一時)閉鎖を迫られる」(真柄睦執行役員)事態に陥った。

そんな窮地を救ったのがトヨタ、デンソー、東海理化が結成したトヨタ生産方式(TPS)支援チームだ。ボトルネック解消や生産工程の見える化などを支援した。状況をできるだけ早く把握するため、大型連休が始まる直前の4月下旬に先発隊の2人が現場入り。連休明けには9人体制で本格的な支援が始まった。

【改善点次々に】

「当初は“カイゼン(TPSの代名詞)”で間に合うのかと思ったが、スピードがすごかった」(同)。日本光電の作業着をまとった支援チームは生産ラインをつぶさにチェック。現場スタッフの動線や部品、治具・ツールの配置場所など、改善点を次々にあぶり出す。かつて経験したことのない急激な増産対応だったが「支援チームの協力で軌道に乗せることができた」(日本光電)。

稼働停止のロスをものともせず、月50台だった生産能力を同300台に引き上げた。真柄執行役員は「生産性が大幅に向上した。今後の海外展開に向けて、富岡が真のマザー工場となる一歩になった」と力を込める。

【命救う思い共有】

マレリ(さいたま市北区)はメトラン(埼玉県川口市)から委託を受け、児玉工場(同本庄市)で人工呼吸器の生産に乗り出した。自動車部品の量産で培った生産技術を見込まれ、経済産業省から打診を受けたのが4月20日。その翌日には生産を決め、7月には初出荷にこぎ着けた。

人工呼吸器の生産ラインを精査し組み立てや調整、品質保証検査など7工程に集約。高い技能を持つ従業員7人を選抜して配置し、数日かかる生産を15分(最短5分)にした。マレリの石橋誠常務執行役員は「これほど短期間でやれたのは、人の命を救えるという思いを社員で共有できたため」と振り返る。

感染の急拡大で機器や物資の不足に見舞われた医療業界をいち早く支援できたのは、日本にモノづくりが残っていたからだ。豊田自工会会長は言う。「国内生産にこだわってきたことは間違いではなかった。リアルなモノづくりの現場は絶対に失ってはいけない」。

日刊工業新聞2020年10月19日

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