革新的な創薬へ、中外薬がDXで社内改革
企業のデジタル変革(DX)が進む。デジタル技術の活用はさまざまな領域で広がっており、自社のデータをいかに活用するかが企業の競争力を左右する。化合物や抗体といった創薬データや臨床データを持つ製薬企業も例外ではない。中外製薬は3月、デジタル戦略として「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を打ち出した。デジタル駆動型の企業として始動する。(安川結野)
CHUGAI DIGITAL VISION 2030では、人工知能(AI)やロボティクスを活用したバリューチェーンの最適化や、デジタルを活用した革新的な創薬といった目標を掲げる。全社的にDXの目標を打ち出したことで、本気度を示した格好だ。
中外製薬デジタル・IT統括部門長の志済聡子執行役員は「DXは製薬業界で広く取り組みが進んでいる」とした上で、現在の中外製薬について「決して進んでいるわけではなく、キャッチアップしていかなくてはいけない」と強調する。すでに多くの製薬企業がDXを進めており、新薬の開発に不可欠なものになりつつある。
中外製薬はまず、クラウド情報基盤「CSI」の構築を進め、社内データの統合を図る。ばらばらに保存された大量のデータをCSI上で統合し、研究者がアクセスして研究開発に生かす。
中外製薬の強みは、親会社であるスイス製薬企業ロシュとの協力体制。志済執行役員は「ロシュはデータをビジネスに活用する意識が高く、早期から情報基盤整備などに取り組んできた」と説明する。中外製薬のデジタル戦略では、こうしたロシュの情報基盤を活用することも視野に入れる。「これまで個人やプロジェクト単位だったデータ利活用も、会社単位で進める事例が増える可能性がある」(志済執行役員)。
DXを支える人材の確保も重要だ。中外製薬がデジタル戦略を打ち出した狙いについて志済執行役員は、「中外製薬のデジタルブランドを発信することで、デジタル人材を引きつけたい」と説明する。デジタル人材を必要としていることをアピールし、人材確保につなげたい考えだ。社内教育については、社員のスキルを可視化し、必要な領域について研修するなどの教育計画も進める。
新型コロナウイルスの感染拡大でリモート業務が浸透し、急速にDXが注目を集めた。しかしDXの本質は、リモート環境の整備やICTの活用など表面的な変化ではなく、情報基盤に活用可能なデータを集積、それをもとに事業効率の向上につなげることだ。そのために、情報基盤といったハード面の整備に加え、人材確保や社員のマインドの変化といったソフト面の改革を両輪で進めることが重要となる。