世界で脚光「ステークホルダー資本主義」、企業経営の潮流になるか

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2020年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議=ブルームバーグ)

「ステークホルダー資本主義」が世界的に脚光を浴びている。企業は株主だけでなく従業員やサプライヤーなどあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきだという考え方で、株主の利益を最優先する「株主資本主義」と対比される。国連の持続可能な開発目標(SDGs)など社会課題の解決に向けた活動が企業経営で重視されるようになってきことが背景にある。制度化された事例もあり、実践に向けた動きが広がる。この流れはコロナ禍でより鮮明になりそうだ。(編集委員・池田勝敏)

株主資本主義 大転換

ステークホルダー資本主義が注目されるようになったのは、米経済団体ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が2019年8月に発表した声明がきっかけ。「顧客、従業員、サプライヤー、地域社会、株主といったすべてのステークホルダーの利益のために会社を導くことをコミットする」という文言から始まる発表文には、それぞれのステークホルダーに対する宣言が記載され、米大手の経営者ら約180人が署名した。

BRTは1978年からコーポレートガバナンス(企業統治)に関する声明を定期的に公表しており、97年以降は株主資本主義を打ち出してきた。しかし、近年のSDGsやESG(環境・社会・企業統治)投資の広がりを受け、米企業の経営者が地域貢献や環境問題への対処を重視するようになってきた。株主資本主義が格差拡大や短期的志向の経営を助長するという弊害を指摘する声も根強くある。そうした背景で、今回の声明が発表された。

ステークホルダー資本主義は、20年1月に開かれた世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)でも重点テーマに据えられた。WEFのクラウス・シュワブ会長は「企業はステークホルダー資本主義を受け入れなければならない。収益の最大化だけでなく、官民連携や市民社会との協力を通じ、企業が持つ能力とリソースを注ぐことでより持続可能で結束した世界を築く」としている。

BRTの声明は、米国で主流だった株主資本主義からの大転換と捉えられ、世界の経済界に衝撃が走ったとされるが、ステークホルダー資本主義は日本の経済界ではなじみ深いとの声が多い。WEFの江田麻季子日本代表は、売り手、買い手、社会の三方を満足させる「三方よし」という近江商人の経営理念を例に挙げ、「日本企業は複数のステークホルダーと関わることの大切さを理解し、社会のために活動してきた」という。

経団連は91年に「企業行動憲章」を制定しステークホルダーとの建設的対話など企業の責任ある行動原則を定めている。正木義久ソーシャル・コミュニケーション本部長は「時代が日本に追いついてきた。日本がステークホルダー資本主義を主導していくべきだ」と話す。

個人・従業員にも配慮

経済同友会の夏季セミナー

日本が先行しているとしてもまだまだ不十分で進化させないといけない―。今月都内で経済同友会が開いた夏季セミナーで、こんな問題意識からステークホルダー資本主義が議論された。「社長時代に三方よしを欧米で説明して回った。欧州では理解されても米国は理解されなかった。それだけにBRTの声明はショックを受けた」と吐露するのはNTTデータの岩本敏男相談役だ。岩本相談役は「デジタル化が進み個人の世界が重視される。これからは個人や従業員にも配慮した『四方よし』でないといけない」と主張した。

仏ヴェオリアの日本法人ヴェオリア・ジャパンの野田由美子会長は「フランスは急速にかじを切っている」と話す。フランスでは19年に「使命を果たす会社」という新しい制度が始まり、ダノンが上場企業で初めて認定された。

ダノンは株主価値の向上と社会・環境問題解決の両立を図ることを定款に示した。野田会長は「日本は制度として落とし込めていない」と制度作りの必要性を訴えた。

サプライヤーと信頼構築

新型コロナウイルス感染症が世界の経済活動に大きな影響を与える中で、ステークホルダー資本主義はますます重視されるべきだとする意見もある。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの桜井洋介シニアコンサルタントは、コロナ禍におけるサプライチェーン(供給網)上の社会的責任を調査。アジアの縫製業が壊滅的な打撃を受けている現状や、縫製業を営む企業の代表者が国境を越えて団結して、サプライヤー保護を含む合同声明を発表した動きをリポートでまとめた。

桜井氏は、コロナ禍でもサプライヤーとの関係を重視し、一体となって労働者の保護に動いた企業は「サプライヤーと信頼関係を構築でき、コロナ収束後にはビジネスをより円滑に進めることができる」と指摘。

コロナ禍にある今こそ「ステークホルダー資本主義に沿った対応を行い、長期的な視点で意思決定を行うべきだ」としている。

ステークホルダー資本主義は、企業の競争力低下や資本主義の後退を懸念する声もあり、実践するには課題が多い。

だが、さまざまな社会課題が複雑化、大規模化、深刻化する中で検討に値すべき考え方であることは間違いないだろう。

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