東芝がシステムLSIから撤退、電機大手の業績はさらに下振れするのか?
東芝は29日、システムLSI事業から撤退すると発表した。世界大手と比べて事業規模が圧倒的に小さく、長年営業赤字に苦しんできた。車載・産業用途に活路を見いだそうとしたが、新型コロナウイルス感染拡大による需要低迷も重なって撤退を決断した。2021年2月末までに人員再配置と早期退職募集で計770人の人員適正化を図る。約118億円の構造改革費用は8月公表の20年度連結業績予想に織り込み済みだという。
同社はシステムLSIの新規開発を中止する。自動車への採用が近年増えていた画像認識プロセッサー「ビスコンティ」など既存製品の販売・サポートは続ける。システムLSI生産の大半は外部委託しており、今回の構造改革に自社グループの工場は含まれない。
固定費削減で21年度から年間150億円以上の利益改善効果を見込む。またパワー半導体などが残る同社の半導体事業は撤退基準の営業利益率5%を21年度に達成できる計画。
日刊工業新聞2020年9月30日
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8月時点の通期予想はこうだったが…
電機大手8社の2021年3月期連結業績予想が出そろい、そのうち5社が営業減益になる見通しだ。日米欧に先駆けて経済活動を正常化させた中国市場が復調する一方で、米中貿易摩擦の激化も重なってスマートフォンなどハイテク製品中心に需要回復の足を引っ張る。新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波も懸念され、各社予断を許さない状況が当分続きそうだ。
東芝は12日、21年3月期連結業績予想(米国会計基準)の営業利益1100億円を据え置いた。新型コロナ影響も従来予想の年間900億円で変えていない。東芝が同日発表した20年4―6月期連結決算は営業損益が前年同期比204億円悪化の126億円の赤字だった。ただ、「4―6月期は期初想定から営業損益で100億円を超えるリカバリーができた」(加茂正治執行役上席常務)と固定費削減と構造改革がより奏功した。
新型コロナによる4―6月期のマイナス影響額は493億円で、特に中国向け半導体製造装置の設置遅れが100億円ほど利益を押し下げた。21年3月期中に設置遅れは挽回する計画だ。
日立製作所は中国市況の回復が想定より早かった昇降機や産業用機器・システムが通期営業利益全体を下支えする。特に昇降機を含むビルシステム事業の21年3月期営業利益(国際会計基準)は5月発表比で125億円増の500億円を見込む。エレベーターの世界最大市場である中国の販売はすでにコロナ危機前の水準に戻っているという。
同じく産業機器などのインダストリー部門も営業利益予想を同100億円増の320億円に上方修正した。日立はスイス・ABBから7月1日に買収した送配電事業に関連し、無形資産などの償却費負担が当初想定より大きくなる。その利益圧迫要因をビルシステムなどの営業増益で相殺する計画だ。
三菱電機は主力のFAシステム事業において中国などでのマスク増産特需の恩恵を受ける。同じく中国が国を挙げて注力する第5世代通信(5G)と半導体関連の需要も堅調。大口の自動車向けFAや自動車機器の販売不振は補いきれないものの、経費抑制や原価低減などの緊急対策も講じて利益を確保する。
シャープは21年3月期連結業績予想で大幅な営業増益と一人気を吐く。各国の経済活動の段階的な正常化を前提に白物家電やテレビ、パソコンなどの販売が堅調で、巣ごもり需要も後押しすると見る。「新しい生活様式が求められる中、ビジネスチャンスとしたい」(野村勝明社長)とBツーC(対消費者)事業を軸にコロナ危機を乗り越えたい考えだ。
富士通も21年3月期連結業績予想(国際会計基準)の営業利益が前期比0・2%増の2120億円とコロナ禍でも増益を維持する。民間向けは受注が停滞するものの、テレワーク商談などのプラス効果が期待できる。また、官公庁や社会インフラ関連は新型コロナ対策の緊急商談もあり、影響は比較的軽微の見通し。
電機業界で勝ち組だったソニーは稼ぎ頭のイメージセンサー事業にブレーキがかかる。21年3月期にイメージセンサー中心の部門営業利益(米国会計基準)は前期比44・8%減の1300億円に落ち込む見通し。「大手顧客の最終製品販売減、コロナの影響によるスマートフォン市場の減速と中位・廉価機種へのシフト、さらには中国における顧客の部品・製品在庫の大幅な調整などの影響により、20年度の売り上げは、前年度比でマイナス成長となる」(十時裕樹副社長)と事業環境は厳しい。
新型コロナによる世界的な景気悪化でスマートフォンの高級機種の売れ行きが鈍り、それに伴って1台当たりのイメージセンサー搭載数も減少傾向にある。加えて、米中対立も暗い影を落とす。米トランプ政権からの制裁強化により、主要顧客だった中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)向けの販売が低調に推移しそう。
パナソニックは新型コロナ影響の深刻な航空機や自動車向け機器の不振が下期まで続く。もともと構造改革の遅れから他社と比べて収益力で見劣りしており、コロナ禍は“弱り目にたたり目”だ。
その構造改革でも赤字の太陽電池事業で主力工場の売却が白紙になり、戦略の見直しを強いられる。「コロナの影響はあるが、経営体質の強化を着実に進めていく」(梅田博和取締役)と業績回復へ次の一手を急ぐ。
(取材・鈴木岳志)日刊工業新聞2020年8月13日