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実社会の課題解決に取り組む研究が生む、権利処理能力を養う効果

プロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL)は、学修成果を統合して正解のない課題で最適解を導く力を獲得する学びの手段だ。筆者の前任校の山口大学は国際総合科学部で知財科目を手厚く配置して、カリキュラム中のPBLで生じる権利処理の能力確保を目指している。同学部は、課題解決能力を持つグローバルスペシャリストに向けた文理融合教育が特徴だ。

専門課程のカリキュラムに必修を含む知財科目が8科目(他に共通教育10科目)、卒業論文の代わりにPBL「プロジェクト型課題解決研究」が配置されている。後者は企業や自治体と連携して実社会の課題解決に取り組むため、プロジェクト自体が実社会の権利関係を反映するリスクに直結している。例えば地元企業の営業用チラシを学生が創作する際に、他社商標などの調査と知財リスク分析を行い、経営者に具体的な対処方法を提案する事例が生まれている。

【学生が発案】

学生発案による総合的な対応例として、山口市内の観光ボードゲーム「キオクあつめ―西の京山口―ゲームブック」を紹介する。これは現在の山口市中心部観光地図から作成したボードゲーム本体とゲームで使うカードに、山口市の古地図を加工した表紙がセットになっている。

大学とPBL参画組織間で基本契約を締結しているが、具体的な権利関係は個別事案が生じた時点で都度処理をする。学生は、卒業後に参加メンバーと連絡が取れなくなる可能性から、初版完成時点で将来の改訂を想定した契約処理を済ませるべきだと考えた。この処理をしないと地図の改訂・翻案が自由にできず、苦労して発行したボードゲームが使われなくなる。

作成した観光ボードゲームのカードで権利処理を行った

【実務の肝を経験】

制作には参画企業の従業員、学生、山口大の予算で一部デザインを受注したデザイナー、自治体が関わった。最終的には指導教員と学部事務担当者も加わって総合的契約を締結した。この過程で大学の基本契約には著作権の経済的、人格的な面での権利処理も記述されているが、契約相手方が明確には認識していないと判明。全参加者納得の上で新たな契約書作成に至った。学生が実務の肝を経験する機会であり、地域コミュニティーに対する知財実践教育としても機能した。

◇帝京大学教授・共通教育センター長 木村友久

日刊工業新聞2020年9月24日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
PBLは文理問わず多くの大学で取り組まれているが、著作権処理まで考えているところは少ないのではないか。事例のような作成ゲームを後年にわたり、改訂しながら活用してもらうには、卒業後はばらばらになる学生をカバーした契約が必要だというのは、いわれてみるともっともだ。各大学のPBL科目担当教員にぜひ、知ってもらい。

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