日本が目指すべき成長モデルは?グローバルニッチトップ企業の可能性

沼上幹 一橋大学大学院教授に聞いた

  • 0
  • 2
東京・千代田区にある一橋大学千代田キャンパスにて

6年ぶりに実施された経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」ですが、毎年選定してもいいぐらい、産業政策上、重要な施策だと思っています。単に国が優良企業にお墨付きを与えるだけではありません。グローバル化、デジタル化、サービス化といった産業構造の転換期にあって、独自技術やビジネスモデルを生かしてニッチ市場において不可欠な存在として競争力を発揮する企業の姿は今後、日本が目指すべき成長モデルを示しているからです。

国際分業の担い手として

グローバルニッチトップは、ドイツの実業家ハーマン・サイモンによって提唱された「隠れたチャンピオンが経済を支えている」との概念から着想を得て、日本にも存在するこれら企業を育成することが狙いですが、「隠れたチャンピオン」の重要性は時代とともに変化しています。

東アジアの生産分業体制が構築される現在、とりわけ、最終組み立てや大量生産型のデバイスなどの生産機能そのものは新興国に移転したとしても、ものづくりに欠かせない装置やこれを構成する部素材を供給する企業は、国際分業を通じた相互補完関係を担うサプライヤーとして、国内外問わずさまざまな企業と広く取引関係を結び、優位なポジションを確立することが可能です。最終組み立て工程などでは新興国とのコスト競争に打ち勝てなくとも、上流工程で独自の技術や製品を有する企業は、経済のグローバル化がいかに進展しようとも競争優位性を発揮できる。こうした領域で活躍できる日本企業を育成することは産業政策として重要であり、こうしたメッセージを広く発信する上でも「グローバルニッチトップ企業100選」は意味があると感じています。

IoTサービスを収益源に

もうひとつの変化は、IoTやAI(人工知能)といった昨今の技術革新を、自社の製造現場の効率化にとどまらず、新たな高度技術サービスとして位置づけ、すでに具体的に収益化する動きがみられる点です。もとより日立製作所のような大企業はIoTサービスを提供するプラットフォームを通じて顧客企業の設備の故障予兆診断や業務効率化につなげるビジネスの展開に舵を切っていますが、「グローバルニッチトップ企業100選」の選定委員長として審査過程の中で、同様のアプローチが中小企業の中にも広がっている実情に触れることができたのが印象的でした。従業員150人ほどのある工作機械メーカーは、IoTやクラウド環境を活用したマシンの遠隔監視システムを開発し、顧客へのサポートサービスとして展開しています。高度技術サービスを優位性の源泉として付加価値を高めるこうしたビジネスモデルは、多くの企業にとってヒントになるのではないでしょうか。

コロナ禍の世界 どう挑む

より多くの企業が世界に踏み出すきっかけにしてほしいとの思いを込めた「グローバルニッチトップ企業100選」ですが、皮肉にもコロナ禍の世界では、従来通りのグローバルビジネスが展開できず、苦境に立たされている企業も少なくないかもしれません。しかし裏返せば、オンラインの会議システムがわずか数カ月の間に爆発的に普及し、これらを活用した打ち合わせや商談が当たり前の日常になりました。時間的・空間的制約が克服できたことで「グローバル」という言葉の意味合いは、がぜん身近なものなりました。

こうした変化を前向きに捉え、積極的な事業活動を展開することで、再び新たなグローバルニッチトップ企業が輩出されるー。私たちは、その転換点に立っているのではないでしょうか。もし、次回の「100選」があるならば、こうした新たなコミュニケーションツールを活用した事業戦略も議論の焦点のひとつになるかもしれませんね。(談)

関連する記事はこちら

特集