【片山恭一】ウイルスは体内で何をしているのか?「テロとの戦い」で考える

セカチューの作者が届ける珠玉のエッセイ

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ウイルスの大きさを実感するのは難しい。あまりにも小さすぎるからだ。花粉や細菌に比べてずっと小さいことはなんとなく知っている。では、どれくらい小さいのだろう?

人間の大人の身長を1.5~2mとしよう。地球の直径は13000000mほどである。人と地球とでは10の7乗くらいのスケールの違いがある。この違いが、おおよそ人間とウイルスのスケールの違いに相当するらしい。つまり人間の身体を地球とすると、ウイルスのサイズは、地球の大きさにたいする人間の大きさと同じくらいになる。やっぱり、ものすごく小さいのだ、ウイルスは。

悪意をもった数人の人間が地球を壊滅状態に追い込むというのは、常識的に考えると不可能だろう。数千人や数万人でも難しいかもしれない。だがウイルスは軽々とやってのける。人間サイズのウイルスが、地球サイズの人体を滅ぼしてしまうのである。これはウイルスの力によるものだろうか?

テロの場合を考えてみよう。正規の軍隊に比べるとテロリストの数は圧倒的に少ない。武力として考えれば取るに足らないはずだ。アメリカや中国や日本の巨大な軍事力に比べれば物の数ではないだろう。ユヴァル・ノア・ハラリによると、2001年の同時多発テロ以来、テロリストが毎年殺害する人は、EUで約50人、アメリカで約10人、中国で約7人、全世界(主にイラク、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア、シリア)で最大2万5000人だそうである。これにたいして毎年交通事故で亡くなる人は、ヨーロッパで約8万人、アメリカで約10万人、中国で約7万人、全世界で125万人にのぼる。ちなみに糖尿病と高血糖値が原因で毎年350万人くらいが亡くなっていると推定されている。

こういう比較に、ぼく自身はあまり意味があるとは思えないのだが、ハラリの得意な数字のレトリックである。交通事故で毎年10万人死んでもなんとも思わないが、テロリストによって10人殺害されたとなると国中が大騒ぎをする、ということを彼は言いたいのだろう。とくにアメリカの場合は、2001年9月の同時多発テロのあと、「テロとの戦い」を宣言してイラクやアフガニスタンに大量の軍隊を送り込んだ。町や村は破壊され、無関係な人たちが大勢巻き添えをくった。そのことが作戦に参加した国々への強い憎悪と恨みを植え付け、さらに多くのテロリストを生み出すことにもなっている。

これこそがテロリストたちの目論見なのだろう。直接に物的損害をもたらすのではなく(そんなことは彼らには無理だ)、心理的な恐怖を与えることで軍事的、政治的、経済的混乱を引き起こす。現に怒り心頭したアメリカのような大国が巨大な軍事力を行使することによって、テロを決行する側からすればカタストロフ的な破壊を生み出すことができる。テロリストの国内への侵入を防ぐためにセキュリティが強化されることで、国民の生活に多大な影響が出る。ぼくも保安検査のためにヒースローで5時間ほど足止めを食ったことがある。そんなことが重なって経済は疲弊していく。テロ対策をめぐり各国の思惑が食い違うことで、国際政治に混乱が生じる。

コロナをめぐる状況と似ていないだろうか? コロナ死の多くは人間のほうがウイルスに過剰に反応することでもたらされている気がする。ウイルスの感染によって重篤化する直接の原因は、自身の免疫反応(炎症反応)である。ウイルスがきっかけで駆動された代謝システムがうまく収束できないことで炎症反応が進み、たとえば肺などの臓器が修復不可能なまでに破壊される。本当に問題なのは、テロの場合と同様に「大騒ぎ」してしまう身体のほうかもしれない。正常な免疫機能を乱す要因の一つが、「ウイルスの脅威」という情報によってもたらされる恐怖や不安、過剰な自粛やロックダウンによるストレスであることは間違いないだろう。

最初にも述べたように、ウイルスというのはものすごく小さい。人体への侵入を防ぐことはほとんど不可能である。それは感染者の治療にあたっている医療従事者たちの厳重な装備を見てもわかる。マスク着用や三密回避くらいでどうにかなるものではないという気がする。だったらぼくたちが心がけるべきことは、ウイルスに感染しても無症候か軽度に経過させられるような、しなやかな心と身体を日ごろから準備しておくことだろう。

テロにたいしてと同様に、未知の新型のウイルスだからといってあまり騒ぎ立てないことが大切ではないだろうか。冷静に状況を判断して、最低限の自粛を心がけたいと思う。

片山恭一の公式サイト、セカチュー・ヴォイスはこちらから

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