海底ケーブル用光部品で世界トップシェア、滋賀の実力企業は戦略に迷いなし
アフリカ大陸と欧州をシームレスにつなぐ世界最大規模の海底ケーブル敷設プロジェクト。2023年にも運用が始まるとみられる次世代通信網。「当社の光デバイスも供給されるんですよ」。湖北工業(滋賀県長浜市)の石井太社長は世界地図を背に、誇らしげにこう語る。
求められる信頼性と耐久性
海底ケーブルは深さ6000メートルもの深海に敷設され、運用期間は四半世紀にも及ぶだけに、ケーブルはもとより、システムを構成するデバイスには高い性能と信頼性が求められる。同社は光増幅器などに用いられる光アイソレータや光フィルタといった海底ケーブル用受動光デバイスで世界シェアの過半を占める。
競争力の源泉は光デバイスに用いられる素子づくりから組み立てまで一貫して行うことができる生産技術および生産体制にある。祖業はアルミ電解コンデンサー用リード線端子だが、1986年に磁気光学結晶の製造技術を確立。その応用製品としてファラデー回転子と呼ばれる光の偏光方向を回転させる特性を持つ素子の量産化に成功したことが、長距離光通信用デバイス市場進出の足がかりとなった。
以来、光アイソレータや光アッテネータ、光フィルタなどを生み出し続けてきたが、いずれの製品も根底にあるのは要素技術として、前述の磁気光学結晶の製造技術や薄膜の評価技術が貫かれている点だ。研究開発部の加藤隆司部長は、その意義をこう解説する。「デバイスとしての性能を発揮するには材料から特性を熟知していることが差別化戦略となるのです」。
戦略に迷いなし
同社の特徴である一貫生産体制。独自の材料製造技術と精密組み立て技術を兼ね備えていることが、製品としての競争優位性につながっている。光デバイスの前工程となる素子づくりは、作業環境が安定した本社工場で結晶の育成から加工まで行い、スリランカ工場に供給。熟練した技能者の手で精密に調心、組み立てられることによって光デバイスが完成する。
スマートフォンやIoT(モノのインターネット)機器の普及に伴い爆発的に高まる情報通信需要だが、海底ケーブル投資は安定して拡大してきたわけではない。とりわけITバブル崩壊後は世界的な景気悪化に伴い敷設プロジェクトが激減。その他の光部品や国内外拠点のコスト低減で収益悪化をしのいだ時期もある。それでも石井社長は、「光部品・デバイス事業を育成するという経営方針に迷いはなかった」と当時を振り返る。
その裏にあるのは「情報通信技術の進展と歩調を合わせ開発に取り組んできた」(同)との自負。同業他社が選択と集中を進めるため、工程ごとに分業化を進める動きが加速するのを横目に、これまで築き上げてきた生産体制で、日進月歩の技術革新に対応する道を選んだ。
超高速大容量化を支える
そしていま。インターネットのデータ通信の99%は海底ケーブル経由。自動運転やデータを活用した新たなビジネスを加速するため、その動脈となる通信インフラに対しては米グーグルやフェイスブックなど巨大IT企業による積極投資が活発化。より高速で大容量の通信を実現するため空間分割多重技術といった新たな基盤技術の研究開発も進む。これら動きは、もちろん同社にとっては射程圏内にある。
海底ケーブル用受動光デバイス市場は数百億円規模とみられ、決して大きくはない。他方、技術的な要求水準は極めて高く、超高速大容量通信の最先端ニーズに応え続けていくことがさらなるイノベーション、市場における地歩の確立につながる。
「供給責任は確かに大きい。しかし責任の重さの一方で、データの活用が新たな価値創造につながる未来が到来するからこそ、そのインフラの一翼を担っていることは、社員にとって大きな誇りなのです」(石井社長)。