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菅首相が意欲示す携帯料金値下げ、物価目標を両立するための大前提

菅首相が意欲示す携帯料金値下げ、物価目標を両立するための大前提

就任会見で「改革を進める」と菅首相(16日21時過ぎ=首相官邸)

菅義偉内閣が16日、発足した。新型コロナウイルスの感染拡大防止、コロナ禍の影響で落ち込んだ景気の回復など課題が山積する厳しい逆風下での船出となる。成長力の衰えが目立つ日本経済の立て直しも、待ったなしの状況にある。規制改革とデジタル化、縦割り行政の打破をテコに成長戦略の抜本強化、経済再生を狙う新政権の真価が問われる。

菅氏は同日召集の臨時国会で第99代首相に指名され、皇居での首相親任式、閣僚認証式を経て新内閣を正式に発足させた。新内閣は麻生太郎副総理兼財務相・金融担当相、梶山弘志経済産業相ら重要閣僚を留任させるなど安定性、継続性を重視した布陣となった。

菅首相は同日の就任会見で「金融緩和、財政投資、成長戦略を3本柱とする安倍政権の経済政策『アベノミクス』を継承し、改革を続ける」と表明。その上で「役所の縦割りや既得権益、前例主義を打破して規制改革を進める」考えを重ねて強調した。デジタル化やサプライチェーン(供給網)の再構築、携帯電話料金の引き下げにも意欲を示した。

新内閣は当面、新型コロナの感染拡大防止と景気の早期回復に全力を挙げる方針だ。民間調査機関の多くは2020年度の国内総生産(GDP)が、実質の前年度比で6%台の減少と、リーマン・ショックがあった08年度の3・4%減を超える落ち込みになると予想する。生産や雇用、設備投資で厳しい調整局面が当分続く見通しの中で、深刻な影響が及びかねない中小企業の事業継続に向けた万全の対策が求められる。

一方、コロナ禍以前から顕著に衰えていた日本経済の成長力をどう回復させるかも、重要課題となる。専門家の間では需要の下支えだけにとどまらず、供給側の生産性を高めるための「サプライサイド改革」を急ぐべきだとする指摘が多い。新内閣が重点政策に掲げる規制改革やデジタル化の推進で、日本経済の成長加速につながる民間投資や新産業・新事業の創出、経済効率の改善がどこまで進むかが注目される。

日刊工業新聞2020年9月17日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
菅内閣が誕生したことで、携帯電話会社が通話料の値下げに追い込まれるのは必至だ。政府の役割は競争環境の整備であって、民間企業の料金水準にまで口出しするのは決して好ましいことではない。しかし、協調的寡占の中で価格競争が起きにくい市場構造になっているのも事実であり、携帯電話会社は政府の介入を許してしまった原因を謙虚に受け止める必要がある。通話料の値下げと物価目標2%は相反する政策のように見えるが、値下げで消費が活性化すれば、物価の押し上げ要因にもなる。目先の評価に惑わされず、長い目で見た政策を繰り出していくことが重要だ。ただその際、生活防衛から余ったお金が貯蓄に回ってしまったら元も子もない。人々が安心して消費できる環境を作るには、雇用の安定が大前提となる。成長が見込める産業に労働者がシフトするような構造改革やそれを促す教育体制の整備も同時に行って初めて通話料の値下げも生きてくる。

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