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オンライン授業だけじゃない、全学でDXを推進する東北大の突出した姿勢

東北大学は教育から経営まで、全学の全活動におけるデジタル変革(DX)に乗り出した。2020年度後期から教室すべてで、講義動画の収録配信サービスを導入する。すでに学内126業務の押印を廃止し、事務職員1600人が100%遠隔勤務できる体制を整えた。他大学より早く着手していたDXを、新型コロナウイルス感染症対応の機会を生かし、隅々まで浸透させていく。(取材=編集委員・山本佳世子)

東北大は東日本大震災での経験を踏まえ、リアル(現実)・サイバー(仮想)の融合を進めてきた。今春のオンライン授業も3月に検討会を設置するなど動きが速かった。

後期からは動画収録配信サービスを導入予定。これによりITが苦手な文系教員も、学部1、2年生の全学教育科目で、従来通りの自然な講義を容易に動画で配信できるようにする。

4月には遠隔勤務の仮想クライアントのライセンスを全事務職員1600人分で取得。在宅勤務率を実際は7割としたが、10割が可能だ。さらに学内申請書類の押印を廃止し、電子決済化した。これらは他の旧帝大と比べても先進的という。

また保護者向けの新型コロナ対応のオンライン懇談会には約700人が参加。研究では先端研究設備のオンライン共用化などを計画している。

旗を振るのはプロボスト(総括副学長)の青木孝文理事だ。DXを含む各案件で、大野英男総長が文部科学省など学外と交渉するのに対し、青木理事が学内業務をまとめる。国立大初で7月に創設した最高デジタル責任者(CDO)に就任し、「今後は研究と社会連携のDXも進める」(青木理事)予定だ。DX担当者公募には学内35人が応募しており、部署を越えた一丸体制で臨んでいく。

日刊工業新聞2020年9月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
新型コロナウイルス感染症の対応で、大半の大学は春からのオンライン授業や、夏の大学院のオンライン入試で手一杯だった。その中で東北大は教育、研究、社会連携、経営と全方向でデジタル化の変革を進める姿勢を打ち出したのに驚いた。東日本大震災の経験から、危機から立ち直るレジリエントの姿勢が、他大学と比べて突出しているのではないかと思う。9年前、震災後の東北大を取材した時に「この大学はものすごくいい大学に生まれ変わるのではないか」と思ったことを思い出す。来年は震災から10年の区切り、この切り口での総合取材を検討してみたい。

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