「安倍時代」は潜在成長率引き上げに失敗、次期政権が倒産・失業の食い止めより優先すべきこと

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BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト河野龍太郎氏
「潜在成長率向上へまい進」

安倍晋三首相の退陣を受けて16日にも、新内閣が発足する。次期政権は7年8カ月間に及んだ安倍政権の経済・財政運営や外交戦略をどう総括し、どのような政策課題に取り組むのか。安倍政権の実績と残された課題を、各界の専門家に聞く。

河野龍太郎氏
―安倍政権の経済政策「アベノミクス」をどう評価しますか。

「まず景気回復を長期化させて完全雇用を実現し、それも維持したことを高く評価したい。戦後最長とはならなかったが、景気の拡大は政権が発足した2012年12月から18年10月まで続いた。失業率も一時は2%台前半まで下がり、どの業種でも人手不足感が強まった。財政と金融緩和で景気を下支えした効果だ。ただ完全雇用の実現後も、財政・金融緩和に頼り続けたことがあだになった」

―具体的には。

「次の課題として経済効率を高め、潜在成長率を引き上げることに力を注ぐべきだったが、これは失敗に終わった。推計では00年代の初めから08年のリーマン・ショック前までは、潜在成長率が1%程度で推移したが、コロナ・ショックの直前には0・5%程度まで下がってしまった」

「潜在成長率が高まれば、実質賃金が上昇して国民生活が豊かになるが、安倍政権の成長戦略はあまり実を結ばなかった。環太平洋連携協定(TPP)や働き方改革、女性の活躍推進など成長につながる施策も一定程度進んだが、極端な財政政策や金融緩和を続けたことで経済効率や生産性がむしろ悪化し、潜在成長率が低迷した」

―政府・日銀はどうすべきでしたか。

「財政や金融緩和は不況期だけに限定すべき政策手段であり、完全雇用の実現後は、これらに依存する経済運営からの“出口”に向けてかじを切るべきだった。成長産業への雇用シフトを促すなどして、日本経済の効率を高める必要があったのに、安倍政権は景気回復の長期化にばかり腐心し、かじを切ろうとしなかった。結果として財政支出や超低金利が続かなければ、収益を上げられない企業ばかりが増えた」

―次期政権には何が求められますか。

「コロナ禍から抜け出すまでは、追加的な財政支出や金融緩和もいたしかたないが、中長期的にはこれらの政策を手じまいし、成長戦略にまい進する必要がある。コロナ禍からの復興のために財政を使うにしても、グリーンニューディールのようなワイズスペンディング(賢い支出)に専念すべきだ。地球規模の気候変動やコロナ危機の中で、経済の姿は変わっていく。今後は倒産や失業を食い止める策より、これから成長が見込める産業への雇用の移動を促す策が求められる。雇用調整助成金の特例措置を延長するよりも、成長分野で生かせるスキルを身に付けるための就業訓練などに、歳出を振り向けるべきだ」(編集委員・宇田川智大)

(取材=電話で実施/写真=BNPパリバ証券提供)

日刊工業新聞2020年9月8日

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