「しんかい6500」運用30周年! 日本には海底地図作りのプロチームがいる

  • 19
  • 8
調査潜水中の「しんかい6500」

2020年は海底探査のアニバーサリーイヤーだ。世界最古の潜水艇が作られてから400年が経過し、海洋研究開発機構の有人潜水調査船「しんかい6500」が運用開始30周年を迎える。文学でも150年前にジュール・ヴェルヌのSF冒険小説『海底二万里』が発表され、多くの人が海底への夢を膨らませた。現在は、海底地図の作製や海洋プラスチック問題などで、さまざまな海底探査を利用した研究が進んでいる。海底探査の最新研究を追った。(飯田真美子)

資源・環境基盤技術確立

日本の近海は水深7000メートル以上の深い海が多い世界的にもまれな地域であり、海洋機構だけでもさまざまな海底探査船を所有している。

地球深部探査船「ちきゅう」(海洋機構提供)

地球深部探査船「ちきゅう」は、約1万メートルの長さのドリルを海上から下ろし、海底を掘削して地球内部を調査する。「おとひめ」や「じんべい」などに代表される無人の深海探査機は3000メートルまで潜水可能で、母船から遠隔で操作して海底資源の採取や海中の二酸化炭素(CO2)濃度などを調べられる。3人乗船できる有人潜水調査船「しんかい6500」は、6500メートルまで潜水でき、ロボットアームやカメラなどを操作し探査する。

海洋調査・研究のため海底の泥などを一気にかき集める「パワークラブ」

探査の条件に合わせて船を使い分ける。世界でも海底探査船が開発され、さまざまな分野に研究成果を発展させている。近年、月や火星など宇宙探査プロジェクトが注目を集めているが地球の海はまだ完全に解明されていないことが多い。世界の海底地形もその一つ。海底探査を利用した海底地図作りが進められている。海底地図が完成すれば海底資源の調査などに役立つ基盤技術確立が期待される。

全地球海底地図30年完成 太古の氷河融解過程推測

日本財団(東京都港区)は、30年までに全地球の海底地形図を100%完成することを目指す国際プロジェクトに取り組んでいる。同プロジェクトが始まった17年には海底地形は全体の6%しか解明されていなかったが、20年には19%の地図化に成功。100%を達成するため、地図を作製できる専門家の育成にも力を入れている。

最近では、豪州の2倍の面積に相当する1450万平方キロメートルの海底データを取り込んで解析し、南極付近で氷河が溶けた痕跡が年輪のように残っていることを確認した。

グリーンランド北部の氷河の海底地図(日本財団提供)

太古からの氷河の融解過程が推測できる。今後は船舶が航行できない未開拓海域のマッピングや、小型船・漁船などと連携したデータ取得の仕組み作りを進める。

海底地図の作製は世界でも関心が高い。17―19年にかけて水深4000メートルの広範囲な海底地図を正確に作る国際競技が行われた。同財団の探査チームも参加。

自律型海中ロボット(AUV)などの潜水機を使い、ミス一つない完璧な海底地図を作り上げた。海底地図作りのプロフェッショナルが集まったチームは、国際プロジェクトが並行する中で優勝を手にした。

同財団の海野光行常務理事は「全世界の海底地形を解明するという人類の夢の実現に向けた大きな一歩となった」と語る。

海洋プラ汚染解明 AIで検出高速・自動化

海には海洋生物だけでなく、生物にとって悪影響となる物質も存在している。その一つが海水や海底の堆積物などに含まれる「海洋プラスチック」だ。プラスチックゴミによる海洋汚染は世界的な問題であり、毎年800万トン以上が海に流出していると推定される。海洋機構の海洋生物環境影響研究センターは、深海に沈んだ海洋プラスチックを「しんかい6500」で回収して分析している。日本の近海に存在する「渦」の底にも海洋プラスチックがたまり、気象状況によって海中のゴミの分布が変わることが明らかになった。

袋やシート類・包装袋などのプラスチックゴミ(駿河湾波勝岬の海底=海洋機構提供)

海洋プラスチックが深海の二枚貝などの海洋生物に与える影響も研究している。海洋プラスチックが海洋生物の体内に取り込まれた時の行動や代謝・ホルモンなどの異常といった変化を調べている。

さらに、NECと共同で人工知能(AI)を使って海洋プラスチックの動態や環境への影響を評価する計測システムを開発した。AIでの画像認識技術を利用して、高速で自動的に海水や堆積物から海洋プラスチックを計測できる。これまで手作業だった海洋プラスチックの検出を自動化することに成功した。

研究チームの土屋正史副主任研究員は「海の表層だけでなく海底にも海洋プラスチックがある。生物にどう取り込まれているかを解明したい」と話す。

南鳥島海域の海底で採取されたレアアースが含まれた泥試料

神戸大が新型探査船 海洋専門人材養成

海洋探査は大学でも実施されているが、大学が所有する練習探査船の老朽化が課題となっている。神戸大学は、最新の探査機能を備えた新型練習探査船を22年にも運用する。

現在稼働中の「深江丸(ふかえまる)」は、海底巨大カルデラ火山の噴火予測に関する探査などを行う。深江丸は完成から30年以上が経過し安全や性能に支障が出ていた。新型船は機能を向上させるだけでなく、災害時の支援活動にも対応できる仕様にする。

新型船の運用は、同大が推進する海洋教育と研究、運用に取り組む「海神(かいじん)プロジェクト」の一つ。海洋開発や海洋産業の創出・振興を図り、海洋ガバナンスにかかる政策立案など、日本が海洋立国として国際海洋社会をけん引できる専門人材の養成を目指す。

21年4月には「海洋政策科学部」を新設する。新学部ではメーンとなる専門科目と副専門科目を自由に選べる「海洋リベラルアーツ教育」を採用。専攻が異なる学生と課題解決策の検討を通じ、思考力や協働性を養う。グローバル企業や国内外の行政機関などで就業体験をすることで、実践力の向上を図る。

日刊工業新聞2020年8月27日

関連する記事はこちら

特集