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海底の宝探しへ。「しんかい6500」の母船、よこすか乗船記

海洋立国支える有人潜水調査船を徹底解剖
海底の宝探しへ。「しんかい6500」の母船、よこすか乗船記

有人潜水調査船「しんかい6500」を整備する乗組員(13日)

 四方を海で囲まれた海洋立国、日本。海底にはレアメタル(希少金属)を含む鉱物資源や海洋生物が多く存在し、探査技術の進展がますます重要になっている。そこで期待されるのが海洋研究開発機構の所有する有人潜水調査船「しんかい6500」。その様子を取材するため、同船搭載の支援母船「よこすか」に同行した。

点検作業綿密に


 13日、しんかい6500の潜水を取材するため、よこすかが停泊する駿河湾に向かった。潜水の報道陣への公開は5年ぶりだ。同日15時半、待ち合わせ場所である清水港富士見埠頭(ふとう)(静岡市清水区)に到着。そこで連絡船「清見丸」に乗った。清見丸で20分ほどの航海の後、駿河湾内で停泊するよこすかが姿を見せた。全長105メートルのよこすかの巨体を目の当たりにする。

 乗船してすぐに目を引いたのは、整備中のしんかい6500。技術者は真剣なまなざしで作業に没頭する。現場の様子はまさに“海上の工場”で、潜水調査船に乗り込むパイロットの安全を守るため14日朝の潜航まで綿密な点検・整備を続けていた。

 その後、船内を一通り見学。廊下はやや狭いと感じたが、与えられた個室にはテレビ、冷蔵庫、ベッド、机があって仕事をするための環境はそろっていた。

 17時からの夕食では、刺し身などの海鮮物を中心としたメニューの充実ぶりに驚いた。正直17時からの夕食は早いと感じたが、「海洋調査で1カ月も船にいれば17時におなかが空くようになりますよ」(海洋機構広報)とのこと。

まるで町工場


 食後、船を操作する指令室やエンジンの部屋などを見学した。よこすかは2206キロワットのディーゼル機関を2基搭載し、航海速力16ノット(時速約30キロメートル)で4439トンの船を進める。その動力源のエンジン部は少し暑く、人の声が聞こえないほどの騒音だ。

 さらに船を進めるためのスクリュープロペラが設置された船尾に近い部屋からは波の音が聞こえる。船のスピードの調整にはプロペラの回転速度を落とさずに、プロペラの角度を変えて船の速度を変える「可変ピッチプロペラ」を採用する。羽根に当たる水の抵抗が変わることで速度を調整する仕組みだ。

 船には多くの優れた技術が使われているが、昔ながらの人の手による作業もあった。例えば船の位置を示す地図は電子データで示せるが、定規を使い手書きの地図も作製する。「大きな手書きの地図のほうがその場にいる人と議論しやすい」(海洋機構乗務員)と実用的な面もある。

 さらに旋盤や溶接機器などがそろった“町工場”もあった。「ちょっとした部品や治具であれば自分たちで作る」(海洋機構広報)と船中での人や技術に感心させられた1日だった。

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日刊工業新聞2017年4月18日/19日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
誰でも乗船できるわけではないので冨井記者にはとても貴重な体験になったと思う。 海洋には鉱物資源やまだ人間が知らない生物が多くいる。今後探索技術が進めば、エネルギーとして、また創薬や新材料の開発へと大きな弾みとなる。海底の宝探しへ挑戦は続く。

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