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7月に企業の生産マインドに改善の兆しが見えてきたワケを解説

新型コロナによる先行き不透明感 やや薄れ

経済産業省では、毎月初旬に、主要製品の生産計画を調べている。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象に、その月と翌月の生産計画を調査している。

今回は、7月初旬に調査した7月と8月の生産計画の状況と、7月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介する。

7月の生産計画とその補正値

7月の生産計画は、季節調整済指数で前月比11.3%の上昇を見込むという結果になった。この計画どおりに生産されれば、7月の鉱工業生産の実績は、2か月連続の前月比上昇となる。

さらに、8月の生産計画も3.4%の上昇という計画になっており、3か月連続の前月比上昇も期待される。

ただし、毎月、生産計画に対して生産実績は下振れする傾向にある。そこで、調査月の生産計画については、生産実績との間で生じる「ずれ」を統計的に推計し、補正計算を行っている。今回、7月の見通しについて計算したところ、7月は、前月比3.1%程度の上昇になるという結果だった。

なお、ここ最近、企業が生産計画を策定するに当たり、新型コロナウイルス感染症の影響を充分に織り込むことが困難であったことが原因で、生産計画値と実績値とのかい離(実現率)が極端に大きくなるという傾向が見られた。

その傾向は、5月及び6月調査、つまり4月及び5月の生産の実現率において顕著だったが、今回の7月調査では、6月の生産の実現率は通常の水準に戻っていることから、生産計画に及ぼす新型コロナウイルス感染症の影響による不確実性が小さくなったものと推測される。

上の補正計算では、4月、5月の生産の実現率の大幅なマイナス幅の影響も受けているものの、直近6月はそれが大きく縮小したことも考えると、7月の生産は、生産計画値からの下振れが上の補正計算より小幅にとどまる可能性もある。

鉱工業生産指数に当てはめると

生産計画の伸びを8月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになる。

6月の鉱工業生産指数実績(確報)は80.2であるため、調査結果の伸び率11.3%をそのまま当てはめれば、7月の指数水準は89.3となる見込みだ。

さらに、8月の生産計画は、前月比3.4%上昇の見込みであることから、仮に7月の生産が計画通りに達成したとすると、8月の指数水準は92.3まで上昇することになる。

ただし、生産計画に対し生産実績は下振れするという傾向的なバイアスがあるため、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、7月の伸び率は3.1%程度であり、この場合、7月の指数水準は82.7に留まると見込まれる。

また、8月の生産計画も同様のバイアスがあることを考えると、8月の指数水準は、調査結果より低下することが考えられる。

生産計画の強気と弱気

生産計画を、前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどの程度、強気なのか弱気なのかを判断する一つの目安となる。

7月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比マイナス15.8%となり、6か月連続で前年同月実績を下回ることになり、低下幅も非常に大きくなっている。

さらに、下のグラフには記載されていないが、翌8月計画も前年同月実績比マイナス11.6%となっており、前年同月実績を大幅に下回る月が続くため、企業マインドは引き続き弱気であると判断される。

ただし、生産計画の前年同月比のマイナス幅は、2月の生産計画以降、拡大していたが、6月生産計画からマイナス幅は縮小に転じ、2か月連続での改善となっていることから、企業の生産マインドに改善の兆しがあると判断される。

また、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値が予測修正率となる。

7月の予測修正率は0.1%となり、10か月ぶりに、生産計画は上方修正された。予測修正率からも、企業の生産マインドに改善の兆しがみてとれる。

生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいる。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用している。

7月調査結果では、アニマルスピリッツ指標はマイナス6.4と、6月調査結果(マイナス24.8)から大きく好転しており、新型コロナウイルス感染症の影響で指標が悪化する直前(2月調査:マイナス7.2)を上回る水準まで回復している。

なお、この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、おおむねマイナス5を下回ると景気後退局面入りしている可能性が高いという傾向が見られるが、先般、内閣府の景気動向指数研究会において、2018年10月が景気の山と暫定的に認定され、同年11月以降、景気後退局面に入ったとされている。

現在も景気は厳しい状況にあり、また感染症の今後の影響にも注意する必要があるものの、アニマルスピリッツ指標は急速な改善を示しており、景気は後退局面を抜け出していくのか、今後の動向も注目される。

7月調査では、強気の割合が増加、弱気の割合が減少したことにより、アニマルスピリッツ指標は上昇となった。特に、生産計画を下方修正した弱気の割合は、前月45.6から今月33.3と、12.3ポイントの大幅改善が見られた。

弱気の割合が大幅に改善した要因としては、7月は新型コロナウイルス感染症の影響による先行きの不透明感が薄れ、企業の生産活動が回復に向かいつつあることが考えられる。

7月の調査結果では、前年同月実績比からは、生産マインドに弱気が見られるもののマイナス幅は縮小しており、また予測修正率やアニマルスピリッツ指標の動きを見ると、企業の生産マインドに改善の兆しがみられる結果となった。

7月は、日本をはじめ各国の経済活動再開の動きと合わせて、企業の生産マインドの改善が進んだものと考えられる。ただし、他方で、現在、新型コロナウイルス感染症の感染者数は日本でも再び増加しており、生産の先行きは引き続き注意深くみていく必要がある。

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