タイで存在感増す台湾企業、在留20万人からあふれるスピード感と親切さ
私がいるタイでは5月から新型コロナウイルス感染者ゼロの日が出始めたが、台湾では2月からゼロの日が増えるなど新型コロナの封じ込めにいち早く成功した。その背景に、台湾の民度の高さを感じている。
台湾のマナー意識は極めて高く、清掃も日本より行き渡り、電車内の飲食禁止、運転や駐車マナーの良さなどにも感心する。新型コロナ発生当初には台湾でもマスク不足が顕在化した。が、マスク生産の全量を政府が買い上げ、ネットで在庫状況も公表しながらマスクを実名で公平に配給する制度をあっと言う間に実現させたことなどに比べると日本のモタモタ感は否めない。
台湾企業のビジネススピードも最高速。世界最大級のノートパソコンメーカーとして中国にも工場を構えるEMS(電子機器の受託製造サービス)大手である台湾の広達電脳(クアンタコンピュータ)では2019年10月にタイ進出を発表した。それからたった7カ月間でワンフロア2万平方メートル、3階建の巨大工場を完成させている。
米中貿易戦争に伴って中国からベトナムやタイへの生産移管の動きが続く中、台湾企業のタイ進出では、タイ政府投資委員会(BOI)から認可されるより前、工場の青写真さえ完成していない段階で工場建設に着手することも日本企業にはとてもまねできないスピード。とりわけ世界のハイテク産業を支えるIT部品生産大国の台湾の製造業では「決めたらすぐに実行しないことがリスク」と考えている。国際ビジネスでのスピード感覚は日系企業とはまったく異なるものだ。
新型コロナ騒ぎ直前にバンコクから台湾取材で往復したが、中国駐在の日本の工作機械関連メーカーの日本人営業マンが台湾に出稼ぎに来ていた。「米中貿易摩擦で中国での販売が激減し、中国では暇。中国から台湾に引き上げた台湾企業に焦点を当てて営業している」と説明していた。
台湾でも、大方の工作機械・関連メーカーの景気は、米中貿易摩擦の影響から低迷中だが、台湾南部の高雄市にある栄田(HONOR)精機では、世界の日系大手に日本メーカーが生産していない大型NC旋盤などを納入。19年の売上高は航空機部品製造の特注機などの注文が増えて、前年比大幅増になったと喜んでいた。
その親会社である台湾最大の工作機械メーカーである高雄市の東台精機も取材した。バンコクで親しい同社タイ子会社の陳社長が私の訪問を知り、私の訪問直前に台湾本社に別件の用を作って飛んで行き、私の董事長インタビューなどを設定してくれていた。いつもながらの台湾人のスピードあふれる親切さに感動した。
タイ在留の日本人は7万人ほど。人口2400万ほどの台湾からは約20万人もの台湾人がタイに住んでビジネスをしている。台湾企業が集うバンコクでの夕食会で出資し合っているところが多いと聞いたが、各社の仲が実に良い。一方、新型コロナで経営危機下のタイの日本企業が助け合っているという話はまったく聞かない。台湾から学ぶべきことは多い。
(文=アジア・ジャーナリスト 松田健)