進化止まらぬ予防安全技術、自動車メーカーの開発競争が激化

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2019年の国内の交通事故死者数は48年の統計開始以来、過去最低を更新し、3215人だった。死亡者数が最高だった70年と比べると5分の1に減少している。その裏には自動車に搭載された安全技術の進化がある。これから死者数ゼロを達成するには、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった技術の新潮流やデータの利活用もカギになってくる。(取材=日下宗大)

■衝突安全―予防安全 進化止まらず

交通事故死者数の推移を振り返ると二つの山がある。1万6765人を記録した1970年と、1万1452人を記録した92年だ。それぞれ前後の期間は「第一次交通戦争」、「第二次交通戦争」と呼ばれる。

交通インフラや法規制の整備と合わせて、死亡事故を抑えるのに大きな効果を上げてきたのが自動車の安全技術だ。まず「衝突安全技術」。自動車が障害物に衝突した後に車内の人命を守る技術だ。

現在は普及が進むエアバッグは87年に日本で初めてホンダ車に搭載された。90年に同じくホンダ車で助手席エアバッグの投入が始まる。16年にはSUBARU(スバル)車に歩行者保護エアバッグが搭載された。90年半ば以降は衝撃を吸収する車体構造などで人命を守る衝突安全ボディーの採用が広がった。

衝突安全対策が進んだものの、15年頃には同技術の死亡事故の低減効果が限界に近づく。それもあり90年代後半からは事故を起こさないようにする「予防安全技術」の開発・搭載が本格化する。従来あった急ブレーキをかけてもハンドル操作不能を防ぐ車輪ロック防止装置(ABS)から、さらに進化した横滑りも防止できる装置も生まれた。

車載向け電子部品の性能向上も先進運転支援ステム(ADAS)などの予防安全技術を後押しする。「単眼カメラとレーザーレーダー」などレーダーやカメラ、ソナーなどを組み合わせて、より正確に素早く障害物や人を捉え、事故を未然に防げるようになった。

今後は自動運転を見据えた運転支援技術の開発が進む。車間距離を一定に保つ装置や、車線の真ん中を走行する技術、衝突回避を支援するシステムなどをベースに進化が図られている。

■技術開発競争が激化

予防安全技術の開発で各社ともしのぎを削る。トヨタ自動車は15年に低速域から高速域まで衝突回避などを支援する予防安全のパッケージ「トヨタ・セーフティー・センス(TSS)」を導入した。搭載車は世界累計で約1600万台だ。

そのコア技術の一つがレーダーとカメラを使った衝突回避支援技術「プリクラッシュセーフティ(PCS)」。夜間歩行者への対応のため、実際の事故現場で状況確認と発生時刻の照度を計測してシステム設計に生かすなど、改良を図ってきた。18年にはTSSの第2世代を投入した。新型小型車「ヤリス」などには最新のTSSを搭載し、さらなる安全技術の普及を図る。

日産自動車は次世代の運転支援システム「プロパイロット2・0」を19年に国内で発売した高級セダン「スカイライン」に搭載した。高速道路で、カーナビゲーションで設定したルートを走行し、同一車線内であれば手放し運転が可能だ。

車両に搭載したカメラやレーダー、ソナー、全地球測位システム(GPS)、3次元(3D)高精度地図データを組み合わせることで、車両の周囲360度の情報と道路上の正確な位置を把握できる。同支援システムは20年以上にわたる先進の360度予防安全技術の開発実績と市場経験の蓄積の上にある。

■バス・トラックの運転支援

三菱ふそうトラック・バスは17年に左折時の巻き込み事故を抑える運転支援技術「アクティブ・サイドガード・アシスト」を大型トラックに初搭載した。国内商用車で唯一の機能で、同社の大型観光バスや中型トラックにも搭載済みだ。他モデルにも展開を計画する。

日野自動車は18年に商用車では世界で初めて「ドライバー異常時対応システム(EDSS)」を大型観光バスに標準装備化。ドライバーの見守り機能や車線逸脱警報との組み合わせで、車両の異常を検知したらEDSSが作動し、車両の速度を徐々に落として安全に停止させる。

さらに日野、いすゞ自動車、三菱ふそう、UDトラックスの商用車4社はトラック隊列走行の実用化のため、21年度までに異なるメーカー同士でも車間幅を制御できる車両を投入する。燃費効率の向上だけでなく、交通事故防止にも期待が寄せられる。

■減少率鈍化、対応急ぐ

現在直面する課題は交通事故死者数の減少率の鈍化をどう打破するか。今までは目立たなかった細かい事故に対応するため、より細かい技術開発が必要になる。減少率を大きくするためにはデータ活用や自動運転などCASE領域の展開が欠かせない。

細かな事故の因子として「対象物が“見えない”」、「対象物の“急な動き”」、「高速度・高相対速度」、「高齢者の運転能力」といった大きく四つが挙げられる。これらに対処するにはセンサー、認識・予測、車両制御を高める必要があり、自動運転が射程に入る。「自動運転の技術は安全のために必要だ」(トヨタの広報担当者)。

車両データの利用も広まっている。75歳以上の高齢ドライバーのアクセルとブレーキの踏み間違いによる死亡事故発生率は75歳未満と比べて8倍だ。トヨタは、この課題を解決するため過去の走行データを分析し、急アクセルを適正に踏んでいるかどうかを判定するアルゴリズムを開発した。「踏み間違いの問題は深刻だ」(同)として、新技術の展開に生かしている。開発したアルゴリズムは協調領域だとして、他の自動車メーカーにも開示している。

30年に交通死亡事故ゼロを目指すスバル。20年代前半は安全運転支援システム「アイサイト」の交差点や市街地事故、ドライバーの状態や操作ミスの対応を強化する。20年代後半には搭載するステレオカメラの認識能力と人工知能(AI)の判断能力を足し合わせる計画だ。

世界保健機関(WHO)の報告では世界で年間約135万人が交通事故で死亡している。「車で人が傷つくことは何としても減らさねばならない」(トヨタの広報担当者)。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標でもターゲット3・6で「20年までに世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」ことが掲げられている。車の事故が無くなる日を目指し、安全技術の進化は続く。

日刊工業新聞2020年8月12日

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