銀行窓口やトヨタの工場はどう変わったか。ソーシャルディスタンスの新概念

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新型コロナ感染防止のため、来店予約店舗を予定より早く全店へ広げた(三井住友銀行梅田北口出張所)

新型コロナウイルス感染症は仕事の現場を変えた。銀行や鉄道などインフラを担う現場では、利用者の感染防止はもちろん、従業員の安全を確保するために各社が工夫を凝らしながら、社会機能の維持に貢献しようとしている。電力の安定供給のため、会議室にテントを張るケースもある。生産現場では供給責任を果たそうと、作業員同士のソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するなどして、感染防止策を徹底している。

銀行店舗

【変わる来店、予約・混雑回避】

銀行は社会機能の維持に欠かせない重要インフラの一つだ。「金融サービスを可能な限り継続し提供することが社会的使命」(三毛兼承全国銀行協会〈全銀協〉会長)と、政府による緊急事態宣言下も営業を続けた。銀行員は医療従事者と同様、社会機能を維持するために働く「エッセンシャルワーカー」だ。

多数の客が集まる店舗は、感染の懸念が拭えない。緊急事態発令中も、来店者がさほど減らなかった銀行店舗は少なくない。全銀協はソーシャルディスタンス確保やインターネットバンキングの積極利用、8月の混雑予想日の公表など、銀行利用時の感染抑止策を一般に呼びかけている。

抑止策で独自色が強いのは三井住友銀行。2019年始めに導入した来店予約を、20年7月までの300支店から全412支店へ拡大した。全店での予約制は3メガバンク初という。混雑緩和を目的に導入を進めてきたが、新型コロナの感染防止を意図し、当初の予定より早く全店へ広げた。

発電所

【外部接触シャットアウト】

東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAは、全国26カ所に火力発電所を有し、総発電容量は6700万キロワットと国内最大級だ。新型コロナ感染拡大による電力の安定供給支障リスクへの対策を3月に定め、必要な措置を講じている。発電所は運転員以外の制御室への立ち入りを禁じ、所内に運転員専用の場所を確保。当直要員の食事専用スペースも用意するなど、外部と接触しない環境をつくっている。

当直要員の感染対策として、会議室に1人用テントを張っている(JERA品川火力発電所=同社提供)

また、当直要員の宿泊が可能な設備、場所も確保するように各発電所に指示した。公共交通機関を使うリスクも高まる事態に備え、発電所で寝泊まりできるようにするためだ。品川火力発電所(東京都品川区)のように会議室に1人用テントを張る発電所もある。

当直要員は数人―10人ほどで班を組み、感染者が出た場合に入れ替わり業務にあたる要員を事前に選定する。650人の運転員を抱える同社は感染予防と事業継続の2本立てで対策をしている。

【現場の工夫、全社に広がる】

駅や列車内など鉄道施設における新型コロナの感染リスク抑制策は、利用客の安全・安心が第一ではあるが、駅係員や乗務員の安全確保にも欠かせない。JR東日本では、JR他社や日本民営鉄道協会などとともに策定した、鉄道事業者向けガイドラインに基づいて、対策に取り組んでいる。

列車内の、つり革や手すりを消毒するなどの取り組みの中には「現場の発意でスタートした」(白石敏男常務執行役員東京支社長)ものも少なくない。各現場で実情に応じた社員の創意工夫が、他の現場にも広がっている。

駅改札や窓口など利用客と対面する場ではマスクを着用し、飛沫(ひまつ)感染防止シート越しの対話で配慮する。利用客にもマスク着用を呼びかけているが、制度上、義務化は困難だ。

飛沫感染防止シートで対策しているJR東日本の東京駅の改札窓口

指定席のインターネット予約やIC乗車、電子看板やスマートフォンによる情報提供など非対面サービスを活用。自律移動型ロボットによる消毒作業の無人化も視野に入れる。

工場

【3密回避、時間差交代】

自動車の工場は自動化が進んできた。しかし、組み立て工程などは人が介在し、ソーシャルディスタンスの確保が難しい。その中で各社は工夫し、感染防止策に取り組んでいる。

ソーシャルディスタンスの確保が難しい中で、車業界各社は感染防止策に取り組む(トヨタ元町工場)

トヨタ自動車は全工場で「3密」を回避するため、工程や作業の特性に合わせてマスク・フェースシールドの着用や間仕切りの設置などでソーシャルディスタンスを確保している。検温を朝・夕の2回実施し、個々の体温情報を見える化するなど従業員の体調管理も徹底。1直と2直勤務者の接触時間が減る措置などを講じている。

マツダは広島県内の企業と連携し、医療現場向けに製作したフェースシールドを工場内で活用。2人一組の作業などで着用し、感染防止に取り組む。

サプライヤーも対策を進める。日本特殊陶業は国内4工場で定期的な換気や消毒薬の設置、設備消毒を実施している。作業者が勤務交代時に接触しないよう、時間をずらすといった対策をしている。

DATA/安心して働ける環境整備

「エッセンシャルワーカー」という言葉が、コロナ禍で広く知られるようになった。第一生命経済研究所が5月に実施した調査によると、緊急事態宣言下でエッセンシャルワーカーを含む「テレワークできずほぼ毎日出勤」していた人のうち40%が、仕事のストレスが増えたと感じたという。「ほぼ毎日テレワーク」(25%)や「出勤とテレワーク」(33%)といった人より割合が高かった。

また、働く上で必要なことを学ぶための時間的ゆとりについて、「テレワークできずほぼ毎日出勤」していた人のうち増えたと回答したのは10%で、テレワークを取り入れた働き方をしていた人は20%を超えていた。エッセンシャルワーカーが他の労働者より過酷な環境にいる様子がうかがえる。第一生命経済研究所の的場康子主席研究員は「テレワークできない仕事に従事している人も、安心して意欲をもって働き続けることができる環境を整備することが必要だ」としている。

日刊工業新聞2020年8月14日

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