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withコロナで再始動、リアル展示会の悪戦苦闘

withコロナで再始動、リアル展示会の悪戦苦闘

入り口にはサーモグラフィーが並ぶ

7月末、インテックス大阪(大阪市住之江区)で大規模展示会が開かれた。新型コロナウイルス感染症が広まって以降、インテックスで全館使用する展示会は約5カ月ぶりだ。大阪府・市や大阪観光局は展示会や国際会議などビジネスイベント「MICE」再始動を掲げており、今回の展示会は“試金石”。3密回避や主催者による商談セッティング、出展企業の“アフター営業”など、ウィズコロナにおける展示会の方向性が見え始めた。(大阪・坂田弓子)

国内のMICE全体の経済波及効果は年間約1兆円。加えて、学術会議や展示会の減少は、技術者や企業のイノベーション、製品開発を停滞させるため、コロナ禍においてもニーズは根強い。感染が比較的起きにくいイベントであることも、大阪がMICEに着目した背景の一つだ。

ライブや居酒屋と違い「興奮して我を忘れる瞬間がない」(加瀬哲男大阪市立大学感染症科学研究センター特任講師)ため、大声や飛沫が発生しにくいといわれる。

【複数の感染防御】

課題もある。MICEのうち、人の動きが流動的で密集回避が難しいと見られるのが展示会だ。今回の展示会開催も密集回避が焦点の一つだった。密集回避やマスク、消毒、検温など一つひとつの感染防御策は有効ではあるが万能ではない。田中嘉一大阪観光局MICE政策統括官は「(感染対策を)より多く複数実施することで感染リスクを回避する」展示会をニューノーマル(新常態)とする。

「開催を決めたのは昨年夏。まさかこんなことになるとは」。展示会を主催する日本能率協会の田部藍子広報・マーケティング室長は緊張しながらも、新型コロナと対峙(たいじ)する。

今回の展示会は「第12回関西ホテル・レストラン・ショー」「メンテナンス・レジリエンスOSAKA2020」「第12回生産システム見える化展」など、七つの専門展の複合開催。東京開催展を東京五輪・パラリンピックとのからみで、大阪開催に変更した専門展が多い。場所を変えるということは、主催者にとってリスクを伴うチャレンジングな取り組みだ。そこに、コロナ禍での開催というイレギュラーな事象が加わった。

入り口に並ぶサーモグラフィーは、従来展示会では見られなかった光景。通路幅は通常2メートルのところ、3メートルを確保した。来場者は日付・時間指定の事前登録を原則として分散し、混雑を回避。さらに出展者・関係者含め入退場をカウントし、1時間当たりの会場にいる人数の制限を設定した。

【追跡システム】

また、2次元コード「QRコード」を読み取ってもらいメール登録する、大阪府の「コロナ追跡システム」を導入。11日時点で、会期中来場者の中で2人の感染報告が寄せられているが、保健所の見解として会場内での感染とは特定されていない。クラスター発生は報告されていないため、幸い同システムの発動には至っていない。

【アフター営業】

関西ホテル・レストラン・ショーに出展した厨房(ちゅうぼう)機器メーカー、ニチワ電機(兵庫県三田市)は実演時の来場者の立ち位置をシールで明示し、来場者との間に大型のアクリル板を設置した。普段は展示会で必ず実施する試食も中止。「サックリ」や「ふんわり」といった食感は口頭では伝わりにくく、営業面では制約となったが「後日、テストキッチンに招待し試食提供するなど、アフター営業につなげる」(泉本泰宏大阪支店市場開発部課長)とウィズコロナにおける展示会への適合を図る。

ニチワ電機は大型アクリル板で飛沫を防ぎ、異例の「試食なし」

関西ホテル・レストラン・ショーの来場者数は3581人、残り六つの展示会が全体で来場者数1万352人。「感染対策をとりながら3日間で収容できる最大想定数内に収まった」(田部室長)と密回避に成功した。

ただ、新型コロナ前と比較した収容可能人数の少なさは、出展者にとっては商談機会の逸失。そこで能率協会はバイヤーを招待し、出展者との商談をセッティングする取り組みを実施した。田部室長は「詳細な振り返りはまだだが、来場者や出展者の声をもとにブラッシュアップしていく」とし、量の制約を質でカバーする展示会の在り方を模索する。

MICEの外国人参加者の1人当たり総消費額は平均33万7000円(主催者負担分含む)。今後、外国人の入国は一般観光よりビジネスが先に解禁される可能性が高く、ウィズコロナのMICEの知見を蓄積しておくことが、インバウンド需要の喪失で大きくダメージを受けた大阪経済の中長期での復活の一助ともなりうる。

日刊工業新聞2020年8月12日

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