【東大人気講座】普遍的な美形は存在するの? 時代と人で変化する「美」

夏休みに読んでほしい! おすすめ本の抜粋「メカ屋のための脳科学入門 脳をリバースエンジニアリングする」

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東大・工学部の超人気講義が待望の書籍化!物理好き(かつ生物嫌い)の学生の知的好奇心を刺激するため、試行錯誤の末に生まれた一冊です。美しさを感じる感性について、脳科学の観点から解説します。感性をデザインに取り入れるため、知っておきたい内容です。

「美しい」の源は何か

日本人の感性は、欧米人のそれとは異なる。その感覚の差異の源は何だろうか? この謎へのアプローチは、東京工芸大学の牟田淳准教授の著作が素晴らしいので紹介したい(※1)。同氏の研究によると、感性も、普段接する情報の分布で決まっているようだ。

無意識的なプロファイリング

さて、図1aの図形のうち、どれが美しいだろうか?

図1a 美しいのはどれ?

一見、無茶な質問に思えるが、回答を強制すれば分布が得られる。実際に調べてみると、なんと日本人と欧米人で分布が異なる!(図1b)

図1b 美しいのはどれ?(※1を元に作成)

日本人には「ア」(正方形)と「ウ」(1:1.41 の白銀比。日本の一般的な書類の相似形)に人気がある。一方、欧米人には「エ」(1:1.62 の黄金比。名刺の相似形)が人気だ。

次に、少し質問を変えてみよう。

図1 の図形のうち、どれが可愛いだろうか?
 その結果、圧倒的に正方形に回答が集中する。また、「どれが子供っぽいか」と問うと回答は正方形に集中し、「どれが大人っぽいか」と問うと、(予想通り)もっとも縦長の「カ」に回答は集中する。この結果からも、我々は抽象的な印象を無意識的に持ってしまうことがわかる。つまり、大人っぽいものは子供っぽいものより縦に長い(縦横比が大きい)印象があり、子供っぽいものは可愛いので縦横比が小さい印象が強い。
 このように、ものごとの印象は、無意識的なプロファイリング(分析技法)で決まる。

ヒトは見なれたものを美しいと思うようになる

そのプロファイルイングのメカニズムの一つとして、「単純接触効果」を紹介しよう。
 単純接触効果とは、可もなく不可もないニュートラルな刺激に繰り返し接すると、その刺激への好意度や印象度が高まるという効果である。つまり、見れば見るほど、聞けば聞くほど、好きになるという現象である。

生存競争が激しい環境で生き残るためには、危険な情報をいち早く察知しなければならない。可もなく不可もないニュートラルな刺激は、少なくとも危険ではない。そのような刺激を頻繁に受け取ると、安心感に変わっていく。これが、単純接触効果の基本的なメカニズムであると考えられる。

さて、体格や衣服の差異(着物と洋服)を考えると、おそらく、欧米人は日本人よりも縦長である。したがって、日本人は欧米人よりも、ずんぐりむっくりな形を頻繁に目にし、その結果、好むようになったと考えられる。また、歴史的建造物を見ても、たとえばパルテノン神殿は黄金比を基調にしているが、法隆寺は白銀比を基調にしているそうだ(図2)。

図2 建造物に見られる黄金比と白銀比

どんな容姿が美形と言われるのか 大勢の顔を平均すると魅力的になる⁉

図3を見てほしい。どの顔が魅力的だろうか?

図3 美男子はどれか?(最上段と最下段がオリジナル顔写真)

顔の魅力に関する研究には長い歴史がある。その結論の一つが、魅力的な顔の要件は平均顔であることである。図3 は、筆者の研究室メンバー8名の写真を元に、顔のモーフィング技術を利用して(※2)、まず二人ずつ、次に四人ずつ、さらに全員と合成してみた。もし、平均顔説が正しいとすれば、全員を合成した顔が最も魅力的に見えるはずである。

平均顔説を初めて唱えたのは、フランシス・ゴルトン卿(Sir Francis Galton;1822-1911)(※3)である。彼は、合成した肖像画は見栄えが良くなると、1878 年のNature 誌に初めて報告している(※4)。その理由は、不規則な特徴が目立たなくなるからとしている。その後もゴルトンは合成画の研究を続け、1908年まで合計6報もの関連研究をNature誌に報告している。
 なるほど、平均顔説には説得力がある。単純接触効果に基づいても、よく見る顔の特徴、つまりは顔の平均的な特徴を好きになっていくと考えれば、平均顔説は理に適っている。

普遍的な美形は存在するか

平均顔説の一方で、美には普遍的な特徴があるという仮説も根強い。最近の研究では、目の位置と口の位置が、どのように顔の魅力に影響するかが詳しく調べられている(※5)。一枚の顔写真を元にして、図4 のように目と口の位置を変えたサンプル画像を作り、それぞれの画像の魅力度を被験者に答えさせる。その結果、顔の長さに対する目から口までの長さが0.36 のとき、顔の魅力度が最大になった。

図4 顔の黄金比⁉(※4を元に作成)

ところで、魅力的な顔が黄金比に基づいて決まるのであれば、黄金比は1.618 なので、顔の長さに対する目から口までの長さの最適な比は(1.618-1)/1.618=0.382 となる。一見すると、0.36 は黄金比に近い。しかし、残念ながら、統計的には0.38 とは等しくないという結果となった。むしろ、0.36 は平均値に近い。つまり、この研究も平均顔説を支持する。

時と場所によって“美しい”は異なる

驚くべきことに、ドラえもん、ちびまる子ちゃん、となりのトトロなど、日本の子供向けアニメのキャラクターの縦横比は白銀比であることが多い! つまり、キャラクターを作ったアーティストは、日本の子供にとって美しく、可愛いと思われる特徴を見事に抽出しているわけだ。

このような筆者の講義を聴講した学生の一人が、非常に興味深い事実をレポートに書いてくれた。なんとポケットモンスター(ポケモン)のピカチュウの縦横比が、図5のように、昔と比べ伸びているというのだ! ポケモンと言えば、欧米をはじめ、世界各国で放送され人気を博している。このようなグローバル化への対応のため、ピカチュウが日本仕様から欧米仕様になった可能性がある。そう言えば、長寿番組のサザエさんも、キャラクターが年代ごとに微妙に異なる。これも、平均的な顔や身体の特徴の経年変化を反映しているかもしれない。

図5 人気アニメのキャラクター
(「メカ屋のための脳科学入門 脳をリバースエンジニアリングする」より一部抜粋)


(※1)牟田淳:「「美しい顔」とはどんな顔か」、化学同人(2013)
(※2)顔合成
(※3)近代統計学の確立に貢献。チャールズ・ダーウィンの従兄で、優生学を初めて唱えたことでも有名。
(※4)F. Galton(1878) Nature 18: 97-100
(※5)P. M. Pallett et al.(2010) Vision Res 50: 149-154



<書籍紹介>
脳や神経の働きを、他分野、特に機械システムの技術者などを対象に体系的に解説した脳科学の入門書。随所に事例やコラムなどのエピソード(ロボットなどへの応用)をまじえ、メカ屋の目線で分かりやすく最新の脳科学の基礎を学ぶことができる。

書名:メカ屋のための脳科学入門 脳をリバースエンジニアリングする
著者名:高橋宏知
判型:A5判
総頁数:224頁
税込み価格:2,420円

<著者>
高橋宏知(たかはし ひろかず)
1975年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター講師(大学院情報理工学系研究科知能機械情報学兼担)。 1998年、東京大学工学部産業機械工学科卒業。 2003年、同大学院工学系研究科産業機械工学専攻修了。 博士(工学)。 2008年、科学技術振興機構さきがけ研究者(川人光男先生統括の「脳情報の解読と制御」領域)。 学生時代は畑村洋太郎先生、中尾政之先生のもとで設計論と失敗学を学ぶ傍ら、脳から神経信号を計測する微小電極を開発し、東京大学医学部の加我君孝先生のもとで、脳への電気刺激で聴覚再建を目指す研究に従事。それ以来、機械系学科に所属しながら、脳のメカニズムを実験的に探求。専門は神経工学と聴覚生理学。現在の興味は、知能や意識の創発メカニズム。 日本生体医工学会、電気学会、北米神経科学会等会員。

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア

<目次(一部抜粋)>
第1編 イントロダクション
第1講 脳の構造から機能を探る
第2講 ハードウェアとしての耳―耳の構造と人工内耳の発明
第3講 脳の予測機能―22個の電極が3万本の聴神経を代替できる理由

第2編 神経細胞編
第4講 神経細胞とネットワーク―なぜ脳には“シワ”があるのか
第5講 神経信号の正体―神経細胞が電気で情報を伝える仕組み
第6講 神経細胞の情報処理メカニズムと神経インターフェイス

第3編 運動編
第7講 筋肉と骨格―生物の運動をつくり出す機構と制御
第8講 筋肉の制御回路―運動ニューロンによる身体の動作制御
第9講 脊髄―運動パターン生成器
第10講 大脳皮質の運動関連領野―階層的な運動制御
第11講 小脳―フィードバック誤差学習による身体モデル構築

第4編 知覚編
第12講 おばあさん細胞仮説―脳の階層性がもたらす“概念”の形成
第13講 神経細胞の情報処理メカニズムと分散表現
第14講 機能マップと神経ダーウィニズム―脳による学習のメカニズム
第15講 脳の省エネ戦略
第16講 脳をリバース・エンジニアリングしてみよう

第5編 芸術編
第17講 脳と芸術―脳は分布に反応する
第18講 好き嫌いの法則性

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