欧州発明家賞に輝いた吉野氏、「リチウム電池の設計自体を見直す段階に来た」

研究を続けてきた動機「一言で言うと好奇心」

 【ウィーン(オーストリア)=冨井哲雄】欧州特許庁(EPO)主催の欧州発明家賞の授賞式が20日、オーストリア・ウィーンで開かれ、旭化成の吉野彰名誉フェローが受賞した。日本人の受賞は2015年に名城大学の飯島澄男終身教授らが受賞して以来、4年ぶり。吉野氏はリチウムイオン電池の開発でノーベル賞の有力候補者の一人。今回の受賞で10月のノーベル賞発表に期待が高まる。

 吉野氏は研究を続けてきた動機について「一言で言うと好奇心」と語り会場を沸かせ、電気自動車(EV)の普及に関しては「2030年くらいにはEVに変わっているのではないか。その実現には電池のコストと走行距離が大きな課題になる」と強調した。

 吉野氏が受賞したのは飯島氏と同じ「非ヨーロッパ諸国部門」。授賞式前の日刊工業新聞とのウィーンでの単独インタビューでは、研究成果が海外に評価されている点に感謝した。

インタビュー「日本の優位性はまだある」


 ―リチウムイオン電池に対する海外からの評価をどのように受け止めていますか。
 「今までにいろいろな機関から賞をもらったが、今回特許関連の機関から賞をもらえた意義は大きい。EPOのような欧州の有力機関から権威付けをしてもらえたことに感謝している」

 ―リチウムイオン電池を取り巻く市場環境をどう見ていますか。
 「リチウムイオン電池は日本で開発され成長したが、今では市場が海外にシフトしている。電池は携帯電話やスマートフォンなどそれを使う生産拠点にシフトする傾向があり、韓国や中国などの海外に生産が移行している。国内の状況が芳しいとはいえないが、電池材料に関しては車載用で日本製が使われるなど、と思う」

 ―今後、リチウムイオン電池はどの分野で利用されていくでしょうか。
 「自動車に関しては、第5世代通信(5G)や人工知能(AI)などの分野と融合しながら未来の車社会を作っていくだろう。さらに車の次の応用分野はロボットだと考えている。自動で部屋を掃除する自律型ロボットがそのイメージに重なる。介護や重いモノを運ぶ作業現場での利用を想定したもので、こうしたロボットへの利用には人間のように瞬発力が出せるような電池が必要になるだろう」

 「さらに同じロボットへの利用として飛行ロボット(ドローン)が挙げられる。現在のドローンより少し大きく宅配便の代わりになるようなもので、小型グライダーが近いイメージだ。これらの機体に積むリチウムイオン電池が市場の標的になると考えている」

 ―リチウムイオン電池の研究の現状はいかがでしょうか。
 「電池の設計自体を見直す段階に来ている。まだまだ科学的に分かっていないことも多い。半導体の原理を理解しないと分からないような部分も出てきた。すでに完成された部分と分かっていない部分がある。分かっていない部分の解明に取り組みたい」

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【欧州発明家賞】ドイツ・ミュンヘンに本部を置く欧州特許庁(EPO)が2006年に創設した欧州で最も権威ある発明家賞。「産業」「研究」「中小企業」「非ヨーロッパ諸国」「功労賞」の5部門と一般投票で決定する「ポピュラープライズ」で構成。毎年5部門から各3人(チーム)計15人(チーム)が最終選考者としてノミネート。審査委員会で各部門1人(チーム)が選ばれ、受賞者となる。日本は過去に5チームがノミネートされ、14年にデンソーウェーブの原昌宏氏らがQRコードで「ポピュラープライズ」、15年に飯島氏らがカーボンナノチューブで非ヨーロッパ部門を受賞した。


                 

日刊工業新聞2019年6月21日

  

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