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【男の妊活】あなたの精子は大丈夫?リクルートが提供、スマホでセルフチェック

俺の妊活#1  スマホで精子を見る

不妊治療と言えば、女性の問題だと捉えられがちだが、そうでもない。実際、世界保健機関(WHO)は不妊の原因の48%は男性にある(男性のみが原因24%、男女ともに原因24%)としている。病院にて不妊治療を受ける年齢が早ければ早いほど、子供を持つ確率が上がると言われ、早期の受診が望ましいとされる。それでも男性の不妊を扱う病院の少なさや男性自身の関心の薄さなどが足を引っ張り、女性に比べ受診が遅れてしまっている現状がある。(取材・小林健人)

女性に比べ、初診が遅れる男性

  ところで、不妊治療はどのような手順をだどるのだろうか。
一般的には以下の通りだ。
① 体調などを観察しながら、自然妊娠を目指すタイミング療法
② 事前に採取した精子を排卵日に合わせて、子宮に直接注入する人工授精
③ 採取した精子と卵子を培養し、細胞分裂が見られた時点で子宮内に戻す体外受精

これらの治療で必要になるのが、精液検査だ。精液内の精子の個数や運動率、濃度などを調べ、実施すべき治療を決める。精液検査は基礎的な検査のため、女性をメーンとしたマタニティークリニックでも受けることができる。だが、当然ながらそうしたクリニックは医者も受診者も女性ばかり。そこに飛び込む心理的ハードルは男性には高く、精液検査の受診は敬遠されてしまう。

そこで受診をためらう男性にも手軽に精液を調べてもらおうと、精液簡易検査キットが各社から販売されるようになってきた。もちろんこれらの製品は医療器具ではないため、病院での検査を完全に代替できるものではない。しかし、こうした検査を受けることで男性も本気で妊活に携わるいわば、「妊活の第一歩」として重要なツールとなる。

興味がない人に手に取ってもらわないといけない、リクルートがこだわったのは?

2016年からリクルートライフスタイル(東京都千代田区)が発売している精子セルフチェック「Seem」。同製品は自分で撮影した精液の動画を専用のアプリで読み込むことで、自身の精子の濃度と運動率をWHOが示す、「下回ると妊娠が難しいとされる下限基準値」と比較することができる。医療器具ではないため、この数値をもって医師に代わって精子の健康度の判断を下す製品ではない。代わりにこだわったのは、手に取りやすさだ。

開発者の入澤諒Seemプロデューサーは「ヘルスケア商品は健康意識の高い人に好まれる。そうなるとどうしても興味のない人は手に取りにくい」と商品の特徴を語る。妊活を開始し始めた層や興味の少ない層へのアプローチを念頭に、パッケージの色味やドラックストアでの広報に工夫を凝らした。

手軽さは製品の特長にもある。計測に必要なのは「Seem」とスマホのみだ。医療機関での診断ではなく、撮影した動画から数値を示す。ユーザーは病院で診療を受ける前にある程度の状態を知り、日々の変化をスマホにて記録、確認することができる。 同社はあくまで、病院へ行くきっかけづくりであることに注力している。そのため、30代だけではなく、若年層の利用も想定する。人気ユーチューバーの『東海オンエア』が昨年12月に公開した動画で「Seem」が使われ、低い年齢層の閲覧者から大きな反響を得た。妊活を意識しない層にも早い段階から自分自身の精子の状態を見てもらい、将来の妊活へつなげたいという。

「Seem」の開発者、入澤氏(取材はオンラインで実施)

入澤氏は「不妊治療は女性が先に始め、遅れて男性が始めるケースが多い。そこで初めて男性に原因があり、女性が行ってきた治療が無駄だったと分かることもある」と現状の問題点を挙げ、「『Seem』をきっかけに妊活を夫婦二人で行うものだと認識してもらいたい」と強調する。

医療機関の知見を活かす

遠隔コミュニケーションサービスなどを手がけるスピンシェル(東京都港区)も30代から40代の「働き世代」をターゲットに、簡易検査キットを昨年より売り出した。同社はもともと、オンライン診療のプラットフォームサービス「LiveCallヘルスケア」を手掛け、医師との交流も多かった。「LiveCallヘルスケア」を通じて、現在監修医を務める小堀善友医師(獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンター、副センター長、准教授)との出会いから同社の「メンズホームチェッカー」が生まれた。

スピンシェル製品「メンズホームチェッカー」。培養士からのコメント付きレポートが特徴だ。

同製品の強みは専門家の声をユーザーに直接届ける点だ。ユーザーが撮影した動画に精子の培養士がコメントを付け返す。また、さらに詳しいコメントを求めるユーザーには同社の「LiveCallヘルスケア」を導入する医療機関のオンラインカウンセリング受けることができる。同社は提携する医療機関の知見を活かし、不妊治療のカウンセリング加速させたい考えだ。

同製品にコストのかかる培養士からのコメントを付ける理由について、小堀医師は「専門家のコメントを付けることで、ユーザーにある程度の根拠をもって病院を受診してもらうため」とあくまで診療を促すツールだという。また、現在のスマホのカメラを使う形では精度に限界があるとし、「製品が示す値はあくまで目安。迷ったり、判断に困った際は必ず医療機関を受診してほしい」とアドバイスする。

簡単で手軽だからこそ、困ったときには専門家へ

これまで、男性自身が積極的に不妊治療に向き合う場面は限られていた。その原因として先述した心理的ハードルに加え、取り扱う病院の少なさなどが挙げられる。それでも自身の精液をセルフチェックできる製品により、敷居は下がりつつある。小堀医師によると「ここ最近、自分の精子をセルフチェックし、動きがなかったり、見つからなかったという理由で来院する人が増えてきている」と語るように、少しづつではあるが、男性の積極参加が目立ってきた。それでもこれらの製品は医療機器ではない。あくまで目安と捉え、専門家の意見を聞くことは欠かせない。これらの製品を使うユーザー側のリテラシーも問われている。

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小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
スマホで見れる手軽さから、ユーザーの中には夫婦やカップルで一緒に見る方もいらっしゃるそうです。 時間が重要な妊活において、早い段階から男女で妊活について話し合えるツールの1つとして使ってみてはいかがでしょうか。

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WHOの調査によると、不妊の原因の約半数は男性であるとされている。それでも男性が不妊治療を行うための心理的ハードルは高い。そんな中、スマホで精子を見ることができるサービスやオンライン診察などが登場している。開発者の意図と不妊治療の専門医に聞いた。

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