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化学メーカーの抗ウイルス・抗菌技術、コロナ予防に活用相次ぐ

化学メーカーの抗ウイルス・抗菌技術、コロナ予防に活用相次ぐ

三井化学は次亜塩素酸ナトリウム入りの圧縮タオル

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予防を目的とした「抗ウイルス」「抗菌」製品が注目を浴びている。化学メーカーはフィルムやスプレーなどを相次いで開発、需要拡大に対応した増産にも積極的だ。衛生への関心が高まっている中、培った技術やノウハウが生かせる分野と見て、一般消費者や医療現場、飲食店などの安全、安心に寄与する。

住友化学は、天然抽出物由来の抗ウイルス剤事業を立ち上げる。すでに抗ウイルス活性が報告されている物質を使い、室内空間に噴霧しやすいように液状の薬剤として製剤化。今秋にも、薬剤を噴霧する機器とセットで発売する。水戸信彰代表取締役常務執行役員は、「当社は殺虫剤などの“外敵を抑える製品”を展開してきた。この技術はウイルスにも使える」と話す。

第1弾製品は、薬剤を狙った場所に届ける「デリバリー技術」で他社の抗ウイルス剤製品との差別化を図る。例えば、針状の噴霧口に静電気をかけて薬剤液を細かな微粒子状にする静電散布技術は、少量の薬剤で長期間、広い空間に薬剤ミストを行き渡らせることができる。同技術と抗ウイルス剤を組み合わせ、室内芳香剤のような感覚で、人が食事や会話をしている時も使えるようにする。

同社は殺虫剤事業において、薬剤だけでなく、薬剤の散布技術も開発してきた。同社の散布技術が採用された有名な家庭用殺虫剤もあり、陰から衛生な生活環境を支えている。今後、農薬事業などで培った天然物由来成分の豊富な知見や安全性評価の技術を活用し、より効果の高い抗ウイルス物質の探索や薬剤開発を進める。

また、樹脂などに練り込んで使う用途で、無機系の抗ウイルス剤を展開している。「コロナ時代に社会的な要請が高い」(水戸代表取締役常務執行役員)とみて、抗ウイルス剤事業に注力する。

三菱ケミカルは子会社の新菱(北九州市八幡西区)から、一般消費者向けの抗ウイルス・抗菌スプレー「アンチウイルススプレー」を7月に発売。ドアノブやテーブル、ソファなどの家具、衣類やカーテンなどの布製品向け。持続型の抗ウイルス・抗菌成分が表面に留まり、乾燥後も効果が14日間続く。

三菱ケミカルのアンチウイルススプレー

三菱ケミカルグループ会社の大阪化成(大阪市西淀川区)が、白衣などの抗ウイルス加工向けに展開する製品「マルカサイド」を使い、「グループ間で協力し、急きょ商品化した」(和賀昌之三菱ケミカル社長)という。

同社はフェースシールドや水に溶けるランドリーバッグなど、新型コロナ感染症の拡大防止向けに多様な製品を開発しており、同スプレーもその一つ。「皆でばか力を出せば、いろいろなものができる」(同)と話す。

三井化学も抗菌・抗ウイルス製品への引き合いが高まっている。三井化学ファイン(東京都中央区)は、次亜塩素酸ナトリウムと圧縮タオルを2イン1パッケージにした「FASTAID ウイルス・スウィーパータオル」を4月に発売した。外袋に記載した指示通りに袋を押すと、間の層がはがれ、圧縮タオルが封入されたスペースを次亜塩素酸ナトリウムが浸し、拭き取りタオルが完成する。

次亜塩素酸ナトリウムは通常1―2週間で分解して失活するが、同パッケージは安定した状態で約2年間保存できる。同製品は、民間非営利団体(NPO)との防災・減災アイデアソン(新アイデアを生み出すイベント)から生まれた製品。新型コロナ感染症の流行が続く中、災害現場だけでなく、病院や介護施設、ホテル、乗り物などでも役立ちそうだ。

リケンテクノスは、「リケガード」シリーズから、2月に抗菌・抗ウイルス性などを認証するSIAAマークを取得した世界初のウインドーフィルムを発売した。銅系の抗ウイルス素材をフィルム表面層に練り込み、ウイルス増殖を大幅に減らす。窓への施工や、接触感染ルートの一つと懸念されるタッチディスプレー表面の保護用途にも提案する。同社は2017年から抗菌や防虫加工を施したリケガードフィルム製品群を展開。抗ウイルスのSIAAマーク取得は、ちょうど新型コロナに間に合った格好だ。

富士フイルムは抗菌技術「Hydro Ag+(ハイドロエージープラス)」を用いたスプレーとクロス向けの原液の生産量を、現在の10倍以上に引き上げる。静岡県富士宮市の工場の設備を8月に増強する。投資額は非開示。

ハイドロエージープラスは富士フイルムが写真フィルム事業で培った、銀に関する知見を生かして開発した技術。スプレーやクロスには同技術を応用した銀系抗菌剤を用い、アルコールが蒸発した後も性能が続く点を訴求している。細菌だけではなく、ウイルスやカビの増殖抑制にも効果を発揮するとしている。

4月と5月はスプレーとクロスの需要が前年同月比で約20倍に急増した。原液工場では生産効率化による増産体制をとったが、容器の調達に制約があったため医療機関への出荷を優先した。

富士フイルムは「ハイドロエージープラス」を活用したアルコールスプレーを8月に増産

銀系抗菌剤と超親水バインダーを組み合わせた抗菌フィルムの需要も前年の同時期と比べ、4倍以上に増えた。これまでスマートフォンや医療機関で用いるタブレットなど向けに提供してきたが、新型コロナの感染拡大後、接触感染対策で、駅の券売機やエレベーターのボタン、リモート学習用のタブレット端末用保護フィルムやコピー機のタッチパネルなどの用途が一気に広がった。「今後の需要によっては、他製品で使用している設備を活用することも検討している」(広報)という。

販路拡大にも乗り出す。海外では既に発売している中国のほか、4月には台湾での販売を始めた。8月にエステーがホテルや飲食店などの業務用に発売する除菌剤にも、ハイドロエージープラスの技術を提供した。

繊維関連メーカーも“抗ウイルス”に着目する。セーレンは7月に抗ウイルス商品シリーズ「BYERUS(バイラス)」の展開を開始、第1弾商品としてマスクを発売した。付着したウイルスを99%以上不活化するフィルターを開発し、マスクと組み合わせて用いる仕組みだ。インフルエンザウイルスとネコカリシウイルスに対する効果を確認した。

セーレンは数年前から、介護向けの感染対策として「抗ウイルス処方」の開発に取り組んでいる。今回の新型コロナ感染拡大に対応し、バイラスシリーズをスタートした。今後、マスクのような生活資材のほか、介護やインテリア関連、車両資材などの商品化を検討している。数年以内に同シリーズ全体で、10億円の売上高を目指す。

クラボウは抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」を用いたマスクを発売した。同加工は口腔内の治療や洗浄時に使われる消毒薬をベースとした固定化抗菌成分「Etak(イータック)」を活用、繊維上の特定のウイルス数を99%減少できるとしている。クレンゼを活用したバスタオルやエコバッグなど、ラインアップ拡大にも取り組む。

日本繊維産業連盟の富吉賢一副会長兼事務総長は「今回の新型コロナ感染拡大に対応し、抗菌、抗ウイルス性のマスクなどがどんどん出ている。接触冷感や速乾性も含め、繊維の機能が注目されている」と説明する。現時点では“抗ウイルス”をうたう商品においても、新型コロナ感染症への効果に関しては不確実なものが少なくない。今後の研究開発に期待がかかる。

セーレンは抗ウイルス商品シリーズ「バイラス」の展開を開始
(取材=梶原洵子・江上佑美子)
日刊工業新聞2020年7月24日

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