スタートアップ拠点都市を目指す「京都・大阪・神戸」、財界トップがアピールする地域力

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コロナ禍―回復手探り

新型コロナウイルス感染症の影響で関西経済も不透明感が漂う。インバウンド(訪日外国人)需要で活気づいた大阪や京都の打撃は大きく、神戸も都市再開発の遅れなど懸念される。その中で京都・大阪・神戸の京阪神地域が国の「スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市」に選ばれたのは好機だ。京阪神3商工会議所トップに地域の現状や中小支援策を聞いた。

京都・塚本能交氏(ワコールHD会長) 事業継続と雇用維持を最優先

―製造業や観光業など、京都経済をけん引する産業が深刻な危機に直面しています。
「米中貿易摩擦の影響で各国の製造業が設備投資を抑制していたところに新型コロナ拡大が追い打ちをかけた。京都には自動車メーカーに部品を納入している企業が多く、業績に影響が出てきている。旺盛だったインバウンド需要は蒸発、国の発表では4、5、6月と前年同月比で99・9%減だ。まずは京都府内や近畿圏中心に国内観光需要を掘り起こす必要がある」

―中小企業にとっては効果的な支援が必要です。
「1月下旬に開設した特別経営相談窓口には、6月までに約2万5000件の相談が殺到した。これは2019年1年間の相談件数を大きく上回り、深刻さを物語る。事業継続と雇用維持を最優先課題に据え、強力に支援する。アフターコロナを見据え新たな展望を描く企業には、新経営計画の策定や金融支援の強化など、きめ細かくバックアップすることが重要だ」

―京阪神地域が「スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市」に選定されました。期待感は。
「ウィズコロナ社会への急激な変化に際し、その課題を解決するビジネスが数多く生まれることを期待する。起業家支援事業『K―CAP』を通じ、社会課題に対応するベンチャーやスタートアップの育成に取り組み、ピンチをチャンスに変える企業を積極的に応援する」

―新型コロナを機に産業のデジタル化の動きが加速しそうです。
「大企業のサプライチェーン(供給網)や社会のデジタル化から中小企業が取り残されないよう、身の丈に合った設備導入や人材育成を支援する。ただ織物など京都の伝統産業の中には、リアルだからこそ良さが分かるものも多い。標準化していくには時間が必要だ」

―国への要望を教えて下さい。
「国の政策は自治体の実情と乖離(かいり)している部分がある。各自治体で課題はさまざま。実情に合わない施策を講じるのではなく、予算の使途などを任せたら良い」

【POINT/歴史の知恵、危機乗り切る】

修学旅行のキャンセルや祇園祭の山鉾巡行中止など、観光産業が盛んな京都にとって衝撃は大きい。ただ京都には「千年の都」に裏打ちされた生活の知恵やモノづくりの知恵が息づく。時の経済人が幾度も見舞われた危機を乗り越えた歴史がある。塚本能交会頭は「コロナ後は元に戻らず時代の変化に対応した、進化した都市になる」と強調。得意とする伝統と最新技術の融合で、来るべき経済復興期に向け変われるか否かが、アフターコロナ社会を左右する。(京都・大原佑美子)

塚本能交氏

大阪・尾崎裕氏(大阪ガス会長) 分析・改善の循環で経済再開

―20日に会頭続投の意思を表明しました。
「社長職など会社経営も同じだが、責任ある立場は短期間で変わってはいけない。6年程度を一つの節目と考えている。いま、新型コロナで経済が縮小する中、中小企業をサポートする地域密着型経済団体としてすべきことは多い」

―感染者が再び増加傾向にあります。
「事業者も消費者も緊急事態宣言解除で『さあ、これから』となっていた。実際に6月には消費がいったん回復。しかし、そう甘くはなかった。サービス業だけでなく、製造業の受注にも影響が遅れて出始め、設備投資延期など産業の川上へ徐々に広がっている」

―政府の旅行需要喚起策「GoToトラベル」をはじめ、感染抑止と経済の両立の難しさに経済界は直面しています。
「GoToはサービス産業を維持する上で必要。しかし不安な人がいるのも理解できる。ウィズコロナ下での両立においては『ここまでして、例外的に発生しても仕方がない』と消費者が受諾できるレベルの対策が必要。会議所は既に外食産業用のガイドラインも策定した」

―大阪は展示会や学術会議などビジネスイベント「MICE」再開の動きもあります。
「MICEに限らず経済活動再開は、ステップ・バイ・ステップで進めることと、分析、改善の循環が重要だ。例えば5000人でクラスター(感染者集団)などが起きなければ、次に1万人とし、そこで問題が起きれば5000人に戻し、その差や原因を分析する。企業にとって販路開拓やマッチングは普段以上に支援が必要。会議所も展示会はオンラインやリアルとの複合など、手探りで進めている」

―スタートアップやベンチャー支援は。
「経済環境悪化がスタートアップなどの芽を摘んでしまってはいけないし、社会変化で商機も生まれる。都心型オープンイノベーション拠点『クロスポート』を開設して3年目。支援やマッチングの基盤はできている。京阪神は国の『スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市』にも選ばれた。連携や制度活用で経済成長を目指す」

【POINT/中小の柔軟性、災い克服期待】

インバウンド需要が成長をけん引してきた大阪経済の痛手は大きく「かつて経験したことのない状態」(尾崎裕会頭)。しかし災いは変化の契機。尾崎会頭は「基盤が弱く社会環境の影響を受けやすい一方、フレキシビリティー(柔軟性)が高く小回りが利く」と中小企業を評する。いかに弱点を克服し、良い部分を伸ばすか。多くの中小企業とつながる商工会議所が、できること、成すべきことは多い。インバウンド“だけじゃない”経済成長がその先にある。(大阪・坂田弓子)

尾崎裕氏

神戸・家次恒氏(シスメックス会長兼社長) 公共投資が活性化の呼び水

―足元の景況感と地域経済の現状は。
「神戸はかつて阪神・淡路大震災という未曽有の危機に直面し復興したが今回は全く異質。7―9月の景気見通しも半数の企業が一段の悪化と厳しい見方を示す。消費マインドをいかに上げていくかが重要だ。業種業態を問わず、新たに挑戦する企業のデジタル化なども後押しする」

―商工会議所の役割や行政への要望は。
「雇用維持、事業継続を最優先に中小企業の資金繰り支援に力を入れている。メーカーの過剰在庫を解消する特設サイトやマスクなどの商材マッチングサイトの運営など緊急応援体制も整えた。一方、行政には第2、3波に備えた検査・医療体制の強化や拡充する各支援策も必要なところに早くお金が届くようにお願いしたい」

―神戸医療産業都市の存在感が一層高まっています。
「全国初の官民連携によるPCR検査体制の運用開始など、医療体制を充実させている。スーパーコンピューター『富岳』を利用した新型コロナ治療薬の開発や、飛沫(ひまつ)拡散シミュレーション、ロボットによるPCR検査の自動化などの取り組みも始まった。これらポテンシャルを最大限発揮し、ポストコロナに踏み出す中、経済界も役割を果たしていく」

―神戸経済活性化の起爆剤は。
「失業者が増加傾向の中、民間企業の努力にも限界がある。公共事業で雇用や需要を生み出すことが重要だ。神戸では三宮周辺の再開発、神戸空港と新神戸駅を結ぶ南北アクセスの強化など前向きな投資が経済を元気にする。公共事業が(活性化の)呼び水になることを真剣に訴えたい」

―神戸の魅力をどうアピールしますか。
「国の『スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市』に当会議所も京阪神連携メンバーとして選ばれており、神戸で起業する機運がさらに高まるだろう。神戸はリモートワークなど働き方が変わる中で、山や海があり環境にも恵まれている。六甲山ではIT企業誘致を促進し、神戸のスタートアップの集積を期待する」

【POINT/変革に震災復興の経験】

兵庫・神戸は阪神・淡路大震災から25年の節目を一区切りに取り巻く環境が大きく変わろうとしている。遅れていた三宮周辺などの都市再開発、神戸空港の国際化に弾みを付けようと思っていた矢先に新型コロナが流行。都市開発の遅れが懸念される。家次恒会頭が「今こそ新たに変わる必要がある」と強調するように、震災復興を果たした民の力と行政の前向きな公共事業投資で、兵庫・神戸が大きく変わる後押しをしてもらいたい。(神戸総局長・香西貴之)

家次恒氏

日刊工業新聞2020年7月22日

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