キヤノン会長が驚く世界経済の激変、複写機とプリンターから見える会社と個人の関係
御手洗冨士夫会長兼社長インタビュー
―新型コロナウイルス感染拡大が世界経済に1929年の世界恐慌以来最大の打撃を与えています。
「3、4年は経済の停滞が続くと心配している。一回冷え込んだ経済を回復するのには時間がかかる。(100年前に流行した)スペイン風邪は長期化して29年の世界恐慌に結びつき、自国第一主義を生んで第2次世界大戦へ流れていった。今回は戦争にはならないと思うが、少なくとも長期的に経済が停滞する可能性はある。もちろん新型コロナのワクチンや特効薬が開発されれば話は別で、もっと早く立ち上がるはずだ」
―景気悪化の背景には何があるのでしょうか。「東西対立が終わって、経済のグローバリゼーションが始まった。世界で価値の交換が盛んに行われ、みな豊かになった。それが08年のリーマン・ショックを機に停滞し、グローバリゼーションが崩れていった。国際協調の基盤が分断されて、特に激しくなったのが米中貿易摩擦だ。景気は回復しても分断は進行して貿易摩擦が深刻化した段階で、新型コロナが発生した。もう一回、世界が協調する枠組みを構築しなければならない」
―新型コロナの影響は多岐にわたります。「総合的にコロナがもたらす不況は深刻だ。全世界のオフィスは今も完全な形で稼働していない。複写機は遊んでおり、消耗品の供給が途絶えている。レストランも閑古鳥が鳴いており、農家も作物を十分に供給できない。例外はIT業界ぐらいで、当社もテレワークのおかげで個人用インクジェットプリンターはものすごく売れている。コロナによる世の中の変化が会社にどれだけ影響を与えるかを如実に感じている」
―産業界もテレワークなど新たな働き方に挑んでいます。「今回、テレワークと真正面から向き合うことができた。往復2時間もざらな通勤問題や、時間の使い方が自由でないと困る開発部門など、職種によってはテレワークの方が生産性を上げられると経験して考え方を見直した。当社のように従来導入してこなかった企業も、テレワークを一つの仕事のやり方として正式に採用するようになるだろう」
(聞き手・鈴木岳志)
日刊工業新聞2020年7月20日