ドコモのクラウドサービスが低遅延で機密性のある理由
NTTドコモはクラウドサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」の商用提供を3月に開始した。ネットワーク経由で遠隔地のコンピューターを利用するクラウドは、通信の遅延やセキュリティーが課題になる場合がある。一方、ドコモは自社の通信網内の設備にクラウド基盤を構築することで、低遅延の実現や機密性の向上を図る。クラウド上には画像認識など、多様な機能も備える。こうした利点を法人顧客に訴求し、第5世代通信(5G)の利用促進にもつなげる。
【遠隔作業支援】
設備保守に携わる現場の作業員を離れた場所にいる熟練技術者がサポート―。ドコモは遠隔作業支援ソリューション「エースリアルforドコモ」の問い合わせの受け付けを3月に始めた。同ソリューションを支えているのが、ドコモオープンイノベーションクラウドや5Gだ。
同ソリューションを使う作業員は、拡張現実(AR)スマートグラスを着用する。遠隔支援者が現場へ向けて情報を送ると、作業員のARグラスに表示される。ARの活用によって現実の世界にデジタル情報が加わり、視覚的に分かりやすい伝達が期待できる。
業務支援用のアプリケーション(応用ソフト)は、ドコモオープンイノベーションクラウド上に構築されている。作業員がマニュアルを閲覧する機能や、正しく作業が行われたかを確認する機能などがドコモ網内にあることで、通信遅延が低減されて安全に使える。高速性が特徴の5Gを活用すれば、大容量データの円滑な転送もしやすくなり、より効果的な支援につながる。
【目標5000社】
ドコモオープンイノベーションクラウドを活用したソリューションは、ほかにも顔認証による入退管理の仕組みなどがある。ただ、さらなる品ぞろえの増加や、クラウド上で実現できる機能の拡充に向けた活動はドコモだけではおぼつかない。
ドコモは法人分野における協業企業数が2018年2月時点で600社だったのを、22年3月に5000社以上とする目標を掲げている。坪谷寿一執行役員5G・IoTビジネス部長は「(提携企業の)数は増やしていきたい。それがソリューションを生み出す源泉になる」と語る。
ただし実現には提携先候補の企業の価値を判断する“目利き”が重要になる。この観点で坪谷執行役員は「技術偏重でなく、マーケティングの視点も持った人材をしっかり作らねばならない」と決意する。新たなソリューションの立ち上げや普及は小さな会社を運営することに似ているとも捉え、起業家精神の醸成に努める考えだ。
【しっかり設計】
法人向け5G事業には、競合するKDDIやソフトバンクも力を注いでいる。また今後は遠隔医療や自動運転でも5Gの活用が期待されるが、これらの分野は人命に関係する。
ドコモの坪谷執行役員はこうした点を念頭に、「しっかり(ネットワークを)設計したり維持管理したりする重要性があらためて問われる」と気を引き締める。愚直な施策の積み重ねが、結果として5Gの利用促進にもつながる。(斎藤弘和)