世界初の認知機能低下を抑える薬誕生か?

アルツハイマー病の治療薬候補が承認申請 

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日本も高齢化で、ADによる認知症が社会課題の一つになっている(イメージ)

認知機能の低下を抑える世界初の治療薬が世に出る可能性が高まった―。米バイオ製薬大手のバイオジェン(マサチューセッツ州)は、エーザイと共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬候補の「アデュカヌマブ」について、米国食品医薬品局(FDA)に承認申請した。現在、ADを予防したり、症状進行を遅らせる治療法はない。当局が効果を認め承認されれば、患者の治療に光がさしそうだ。(安川結野)

神経細胞中のAβ除去 症状悪化抑制を確認

【患者は数千万人】

ADは、記憶や運動機能などが低下する進行性の神経疾患で、早期の死亡につながるケースが多い。世界保健機関(WHO)によると全世界の患者数は数千万人にのぼり、今後も増加を予想する。症状が進行すると日常生活においても介助が必要になるなど周囲の負担は重く、日本を含め世界的な社会課題となっている。

ADは、脳の神経細胞内に蓄積する「アミロイドベータ(Aβ)」が一因で発症すると考えられている。Aβの集合体が蓄積すると神経細胞が変性し、信号の伝達などに異常が生じる。アデュカヌマブは、Aβに結合する構造を持った「モノクローナル抗体」で、神経細胞中のAβを除去する作用がある。これにより、言語や記憶といった認知機能の低下を抑制する効果が期待される。

アデュカヌマブの開発を巡っては、過去に臨床試験を中止した経緯がある。バイオジェンは軽度AD患者などを対象に、2015年から全世界で約1600人が参加する臨床試験を二つ実施した。臨床試験では、「APOE4」という遺伝子が陽性の患者は、同剤の投与により無症候性の脳浮腫が起きやすいとされ、投与量の上限を低く設定していた。

【FDAと協議】

17年3月には試験内容を見直し、APOE4陽性患者にも高用量を投与できるように変更。しかし、18年12月までのデータを解析した結果、効果が見込めないと判断し、19年3月に試験中止を決定した。臨床試験に参加した患者の約3分の2がAPOE4陽性で、試験の途中まで高用量が投与できなかったことが中止判断に影響を与えたと推測される。

しかし一転して、臨床試験のデータを再分析したところ、高用量を投与した患者群で症状悪化の抑制を確認。FDAと協議し、今回の承認申請に至った。

AD治療薬を巡っては米メルクや米イーライ・リリー、英アストラゼネカなど世界の巨大製薬企業が開発に挑んだが、十分な効果を証明できず相次いで試験を中止した。

ADの原因の一つであるAβは、発症の約20年前から蓄積が始まるとされ、早期の診断と治療開始が重要だ。しかし、現在ADの根本的な治療法や予防法はない。アデュカヌマブによって早期のAD患者の症状進行が抑制されれば、患者の自立や生活の質向上につながり、世界的な課題解決が実現するかもしれない。

日刊工業新聞2020年7月16日

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