【独占】「英語、専門、作法が重要!」大学経営で勝負に出た京都先端科学大・永守理事長
感染症の拡大など世界の大変革期には、危機をチャンスに変える人材が欠かせない。しかしその社会ニーズに、大学は応えられていない、と感じる産業人は多い。日本電産の永守重信会長は「日本の大学は50年前の教育をしている」と確信し、2018年に京都先端科学大学の理事長に就任した。他大学とは段違いのスピードと情熱で改革を進める。学校教育から人づくりの勝負に出る、そのほとばしる熱い思いを聞いた。(聞き手・山本佳世子、大原佑美子)
学生に憤慨後、教員にあきれた
-大学の経営を決意した理由をお願いします。日本電産での新卒者の採用で、最初は会社の規模が小さくて偏差値が高い人は応募してこなかった。そのためやる気や熱意の感情指数(EQ)が高い人を採用したのがうまくいった。その後、偏差値の高い大学の学生も来るようになり、よい仕事をしてもらえると思ったが、データの分析結果を見て愕然とした。ブランド力のある大学とそうでない大学と、出身者の差は何もなかった。(どちらも)英語は話せない、ビジネスの用語は知らない、作法もだめ。「大学教育は意味のないことをしているのか?」。それなら自分で大学をつくろうと思ったが、簡単ではない。そんなとき、京都学園大学に関わっていた友人に、同大の経営を勧められた。私は多くのつぶれかけた企業を買収し、立て直してきた。大学と企業は違うといわれるが、企業のようにもうけて株主に配当する必要もない。いい大学なら寄付金が集まり、授業料も上げられ、よりよい環境や先生を用意できる。それで関わるようになった。
複数の大学を見たが、寝ているか、スマートフォンをいじるか、私語をしているかという学生がざらだった。しかし、自分も教室に座ってみた結果、学生のせいじゃないとわかった。私も90分のうち80分、気絶してしまったから。これはまったく先生のせい。スマホで調べればわかることを教えている。大学は50年、遅れている。50年前ならスマホもなく、「さすが大学生はよく知っているな」と思われた。しかし今の大学卒は何も役にたたない。一体、大学では何を学んでるんだ。学んでいない、寝てる。単位さえもらえばいいと、高い授業料を払って寝てる。たまりません。今の大学教育は間違っている。
-そこで経営者魂に火が付いて、改革に着手した…。まず「大学は、教員は、職員はこうあるべきだ」という自分の理念をはっきり皆に伝えた。日本は子どもがどんどん減っていき、大学は将来、半分に減る。今までの形ですむ大学はこの先ありません。「あなた方がいい仕事をしてくれるなら給料を上げていくけど、従来の仕事なら半分も払えない。夢のある大学をつくる、その使命感がない人は辞めてください」と言った。校舎も研究室も新しくした。そうしたら大学の中身も大きく変わっていき、あまりいいたくないけど、偏差値だってボーンと上がりました。
100年前の話をするな!
僕は学生時代の趣味を聞かれたら、「教室の一番前に座り、先生に質問しまくって答えられない状況を見て喜んでた」っていいます。当然、ものすごく勉強していかないと質問できない。だからそんな気にさせるような、学生が「あの先生の授業をもっと聞きたいな」と思うようにしてほしい。企業の場合も「また今日も会社か、かなわないな」という人では生産性が上がらない。大学の場合は学生に授業料払ってもらってお客さんみたいなもの。先生方には「学生が、あの先生の授業が明日あるな、と前の日から楽しみにしているくらいの授業にしないと、いけないじゃないか」「少なくとも学生を居眠りさせるな、スマホに書いてあることを教えるな」と伝えている。
-どの大学でも教員は、学術研究者を養成する高等教育機関という意識があり、社会のための人を育成する機関だという考えが薄いようです。そんなもの!(社会のための人材育成が)当たり前でしょ!まったく100年前の話をしている。昔は我々は海外に行けなかったし、大卒はすごいことを知っているなと思うことがあったが。今、すぐに仕事できない人を採用してどうするんだ。初任給20数万円を払って。まあ日本人は会社を辞めないから、これまでは中長期投資としてよかったけれど。我々もアメリカでは違う会社で、「君はいろいろなことを経験しているな、インターンシップ(就業体験)も半年やったんだな、それなら入社2-3年目の力を持っているから、これくらい給与を出すよ」とする。なのに日本は全員、同じで差をつけない。そんなことでは世界に負けます。 大学の給与もうちはどんどん差をつけますよ。先生も職員も。企業と同じ、実績主義です。
英会話力、専門能力、作法を重視
-中規模総合大学のトップとして、教育のポイントをどこに置きましたか。重視するのは英会話力、ビジネスなどの専門能力、言葉使いなどの作法だ。我々、日本電産は世界40カ国以上でビジネスをし、従業員は世界で約12万人、日本は約1万人。ほぼ全部、外国人ですから。営業だけじゃなくて経理も人事もエンジニアも、英会話がまず大事。次にレベルは低くていいから、入社してすぐ皆の中に入って話ができる専門性を。それから作法。上座、下座もわからず大事なお客さんのところで失敗しないように。一般教養も大事というのはわかりますよ。進学率が10%の時には『大学を出た人はよく知ってるな』と我々も感心しましたから。なのに50%が大学に行く時代に、英会話は全然できない、決算書も読めないんだから。企業は顧客が欲しいもの、マーケットが求めているものを作って出す。大学は、社会が欲しがっていない人材ばかりつくっている。
医学部をつくろう!
-4月に本命の工学部機械電気システム工学科を開設しました。日本電産の主事業のモーターと重なる、アクチュエーターを中心に据えた学科です。デジタル時代において人工知能(AI)などソフトではなく、ハードを手がける思いをお聞かせください。モーターは機械工学、電気工学、電子工学、ソフトウエア、化学、この五つの学問の集合体だ。これをまとめて教えているところは他にない。これから車はどんどん電気自動車(EV)に替わっていく。1人乗りの小さな「空飛ぶ車」が実現する。ロボットは世界の工場を無人化してしまう。新型コロナウイルス感染症で大きく変わった物流も、ロボットや飛行ロボット(ドローン)を多用する。そんな時代が来ているのにエンジニアがいない。本学からはモーターのプロが育ちます。工学部の先生は3分の1が外国人で、授業は最初から英語で徹底的にする。その覚悟で来るんだから勇気のある学生ばかりで、入試倍率も高かった。工学部の外国人の先生は10人の枠に350人の応募があった。私の考え方に共鳴してくれる人がたくさんいるわけですよ。
それから付属になる高校・中学との統合を発表した。次はビジネススクールです。工学部卒のエンジニアを最高経営責任者(CEO)にする。経営学でなくて、経営を教える。僕が塾頭になって、創業者の友人を連れてきて話をさせますよ。その先には「医学部をつくろう」と最近、言っている。これは老人医療です。簡単ではないですが。
日本電産本社〈京都市南区〉の別室からオンラインでインタビュー。写真はモニターを撮影)