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酒かすからジン、「和から洋へ」の意外性に独自商品を生むヒントあり

東京・渋谷の再開発の喧騒(けんそう)から離れた場所にエシカル・スピリッツ(東京都渋谷区)の本社がある。細い路地が入り組んだ街に溶け込む商店のようなオフィスだ。室内に入ると日本酒が並んだショーケースと、大型モニターが同居する不思議な空間が広がる。

エシカル・スピリッツは日本酒の製造で発生する酒かすでジンを造り、販売する。コンサルタントやメディアなど出身業界が異なる4人で2020年2月に創業した。同社のジン「LAST」は3月、伊勢丹などで販売された。

共同発起人の1人である山本祐也氏は「酒かすに目を付けたのは、酒蔵が困っていたから」と話す。日本酒造りに投入した酒米の重量に対し、30―35%の酒かすが発生する。かす漬けなどで利用用途はあるが、量が多くて使い切れない。酒かすは放置すると腐敗して虫が寄ってくるため、酒蔵は費用を払って廃棄している。

その酒かすにもアルコールが含まれている。エシカル・スピリッツは酒かすを蒸留してアルコールを取り出し、ジンのベースとなるスピリッツ(蒸留酒)を造る。「ジンはスピリッツに香りを付けて世界観をつくりだす飲み物。我々は酒かすでスピリッツを造り、我々のレシピで香りを付けた」と独自性を説明する。酒かすの風味があり、出来上がったジンは「2次元の香り」(山本氏)と自信をみせる。

エシカル・スピリッツは廃棄されていた酒かすを価値のある商品に変え、酒蔵は酒かすの課題を解消できる。資源の有効利用で利益を生み出す循環経済(サーキュラーエコノミー)が成立するが、そこで終わらない。エシカル・スピリッツはジンの売上高の一部で農家から酒米を購入し、酒かすを提供した酒蔵に戻す。農家にも収入アップとなり、国内農業の支援に貢献できるからだ。日本酒の製造も含めると、コメという資源で“2次元・3次元”の価値を生み出す。

山本氏はもともと「伝統産業をサステナブル(持続可能)にする仕事に興味があった」という。特に日本酒に関心を持ち、13年に「未来酒店」を起業。証券会社やアイドル運営会社で習得した財務や事業開発の知見を生かし、日本酒のセレクトストアなどを事業化してきた。

全国の酒蔵を回って酒かすの問題を知り、エシカル・スピリッツを立ち上げた。都内に自前の蒸留所を建設し、東京を資源循環のハブにする計画がある。伝統産業を支援したい“スピリッツ(魂)”が原動力だ。

酒かすの蒸留工程(鳥取県の「千代むすび酒造」)。蒸留所の都内建設も計画
日刊工業新聞2020年7月3日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
世界的にジンは成長商品だそうです。ここまでエシカル(環境や社会に配慮した)なジンはないのでは。酒かすからジンという「和」から「洋」への変換にも意外性があって、思わず話を聞きたくなりませんか。意外性のある組み合わせの発見が、独自商品を生むのだと思います。

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