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大打撃の観光業。JTB会長が考える「withコロナ」を生き抜くカギ

大打撃の観光業。JTB会長が考える「withコロナ」を生き抜くカギ

新型コロナウイルス予防対策でマスクを装着する空港スタッフと搭乗客(羽田空港国際線出発ロビー)

新型コロナウイルス感染症の影響を最も大きく受けた産業の一つが観光だ。渡航制限や移動自粛のあおりを受け、観光地からにぎわいが消失した。近年の訪日外国人客(インバウンド)拡大は地域に活力を与え、幅広い産業に経済効果をもたらしていただけに、その喪失は痛手だ。長年、日本の観光産業をリードしてきた日本旅行業協会(JATA)会長でJTB会長の田川博己氏に、“ウィズコロナ”時代を生き抜くためのカギを聞いた。

―新型コロナは、人的交流(ツーリズム)を寸断しました。
「いかに移動と交流がないと生活が豊かになれないか分かった。人との交流の中で喜怒哀楽を感じないと生きられない。旅行も、飲みに行くのも、観劇もツーリズム。裾野は広く、毎月4兆円ぐらいを失ってきた計算だ」

―旅行は、どのように再開できますか。
「医療崩壊、医療関係者への真摯(しんし)な気持ちはあるが、黙っていると1年、2年と続いてしまう。感染リスクは払拭(ふっしょく)できず(従来の形での)年内再開は難しいだろう。自然災害では復興にツーリズムが使われるが、今回は人の心の中。人命を賭してまで観光復活は考えられない。旅行業界は渡航医学会や危機管理の専門家が参加してガイドラインを作った。いかに安全、安心に旅行できるか、という仕組みづくりが必要だ」

―新しい旅のスタイルは生まれますか。
「働き方改革が制度的なものでなく、本格的に中身を議論する動きになるだろう。今回のテレワーク経験で、“ワーケーション”のように旅をしながらでも、仕事ができると分かった。そういう視点をDMO(観光地経営組織)や各自治体に持ってほしい。ややもすると、この2、3年は(着地の)コンテンツが経験・体験ばかりになっていた。何のためにやるのかが大事だ」

日本旅行業協会(JATA)会長でJTB会長の田川博己氏

―旅行会社の役割は変わりますか。
「旅行会社が持つ機能は企画力、あっせん力、添乗力だ。電子情報技術産業協会(JEITA)の副会長を務め、メーカーと組む可能性を感じた。我々はツアーを作るプロ。この機能を、ほかの業種に移したら、何ができるのかがカギになる」

―2030年、訪日客6000万人の政府目標をどう見ますか。
「交流大国にならないと観光先進国にはなれない。数はメルクマール(指標)だが、中身を議論すべきだ。需要が戻るまでの1、2年を、これまでの日本の観光を見直す時期にすればよい。国土・経済力・文化力・人間力といったツーリズムに必要な力を考えると潜在力は十分ある。各地域の“ストーリー”に磨きをかけておけば、インバウンド復活時の日本の武器になる」

【記者の目/夜明け待たず、人的交流再開も】
人的交流とは人間の本能なのだろう。仮想的に旅はできても、現地で五感をはたらかせて得る経験は、今の技術では再現できない。いまだ感染終息は先が見えない闇の中。旅でしか得られない経験を求めて「自制」(田川会長)とともに出かけるのであれば、夜明けを待たなくても良いのではないだろうか。(小林広幸)

日刊工業新聞2020年6月12日

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