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コロナ禍が迫る業務変革。「部」がない企業こそ持続可能なのか

“コロナショック”は企業の業務にも変革を迫っている。生物の培養・育成事業を手がける、ちとせバイオエボリューションの藤田朋宏最高経営責任者(CEO)は、シンガポールから出国せずにコロナ禍の日本国内の経営にも当たった。その経験から、企業の「部」のあり方に疑問を投げかける。「部」がない企業こそ持続可能なのか、藤田氏に聞いた。

―本社のあるシンガポールは厳しい感染予防策がとられました。
「2月からシンガポールの自宅で自主待機していたが、4月から都市封鎖となって出社もできなくなった。現地のイチゴ販売事業は継続できたが、取引先の高級ホテルが休業したため、出荷できない時期もあった」

―中核のちとせ研究所を含め、グループ会社の多くは日本です。海外からどのように経営しましたか。
「プロジェクトごとにリーダーを決め、リーダーに任せている。日本ではリーダーが顧客やパートナー企業と協議して継続などを判断したので、私が海外にいても大きな不都合はなかった。それに顧客によって事情が異なるので、以前からルールはない。部長や課長が判断する仕組みでもない」

ちとせバイオエボリューションCEO・藤田朋宏氏

―部長に決定権があるのでは。
「課題ごとに責任者を決めている。そもそも『広報部』という名の仕事はなく、『世の中に会社を知ってもらう』という課題解決が広報部員の仕事だ。『部』ありきだと、どこまでが営業一部、どこからが営業二部とテリトリーを決めてしまう。これだと課題が生じても、部同士がお見合いして対応が遅い」

―伝統的な組織とは違います。
「業務プロセスに縛られている企業がある。申請書やはんこは仕事を回すために必要だったが、いつの間にかプロセスを守れた人が評価されるようになった。業務プロセスに固執すると意思決定が遅い。緊急時でも、社内規定を変えないと対応できない。業務プロセスに依存すると誰でも同じことができてしまうので、意思決定者もいなくなる」

―どのような組織だと持続可能になりますか。
「会社ではなく、プロジェクトで人材が離合集散する世界になる気がしている。企業に所属する人も、人のつながりでプロジェクトに参加する。会社同士だと契約に時間がかかるが、人と人との関係なら始動も修正も早く、新たな課題への対応も柔軟だ」

【記者の目/リーダーに任せる覚悟を】
持続可能な開発目標(SDGs)の入門書に「課題を起点に事業を考えろ」と書かれている。商品が起点だと販売を優先するが、課題が起点だと顧客が求める商品開発ができる。組織も課題が起点だと、人員に目的が共有され、対応が早そうだ。逆に部が基準だと部署間の調整にも時間がかかる。藤田CEOの話を聞き、リーダーに任せると決めたら最後まで任せる経営者の覚悟も肝心と感じた。(編集委員・松木喬)

日刊工業新聞2020年6月12日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「こんなテーマで、他社と開発をしたいんですけど」「やりたいならオープンイノベーション部に異動しなさい」なんて会話を想像しました。オープンイノベーション部員じゃないとオープンイノベーションができない?「既存の発想に縛られず!」と言いながら、おかしな感じです。カタカナ名が先行し、中身が分からない部もあります。所属する方がミッションを理解していたら良いのですが。自分自身も「その仕事なら、あっちの部で」と言ってしまいがちですが、「ある人になら頼める」と思った時は、部は意識していない気がします。

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