アフター・コロナの世界を再生する「グリーンリカバリー」とは?

東京大学未来ビジョン研究センター教授・高村ゆかり

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コロナ後の世界と「グリーン・リカバリー」

2020年は、国際的な環境政策のちょうど区切りの年にあたり、重要な会議が予定されている。生物多様性条約の締約国会議(COP15)では、2010年に名古屋で開催されたCOP10で合意された、生物多様性の減少を止めるための2020年に向けた20の戦略目標(愛知ターゲット)に続く次の目標が議論される予定である。

また、2020年は、パリ協定の下で、各国がその削減目標(NDC)の見直し、再提出する最初のタイミングで、世界で高まる気候変動への危機感に対して、いかに世界全体の排出削減水準を引き上げる機会としうるかが注目されている。

しかし、世界的な感染症の拡大のため、11月に英国・グラスゴーで開催予定だった気候変動枠組条約とパリ協定の締約国会議(COP26)は2021年に延期することがすでに決まり、10月に開催予定の生物多様性条約のCOPも延期を念頭に日程を調整している。

災害・感染症に強靭な脱炭素社会を構築

そうした中、ドイツが主要国の閣僚級を招いて毎年開催しているペータースベルク気候対話が、COP26の議長国・英国とともに、4月27・28日にweb会議で開催された。この会合の議論の中心が「グリーン・リカバリー(Green Recovery)」であった。
 この感染症によってダメージをうけた経済と社会を、パリ協定とSDGsと整合した、脱炭素で、災害や感染症にレジリエント(強靱(きょうじん))な社会・経済に、そして生態系と生物多様性を保全するよう、グリーンに復興していこうというものである。この「グリーン・リカバリー」の重要性、必要性は、すでにグテーレス国連事務総長も繰り返し発言している。

近年の感染症のほとんどが人間、動物の種を超えて感染するウイルスによるものである。「サイエンス」誌に2018年に掲載されたキャロルらの論文では、野生動物にはなお約170万の未発見のウイルスが存在し、そのうち約63万―82万のウイルスが人に感染するポテンシャルがあると推計する。近年、こうした病原体の出現の速度が増しており、それは人間活動や気候変動による生態系の破壊など環境の変化が拡大していることによると考えられている。

他方、気候変動が近年の豪雨や熱波などの異常気象の一因となっていると考えられているが、こうした異常気象により大きな災害が生じるようなことがあれば、感染症の抑制も、そのために必要な医療体制や生活基盤の維持も困難になってしまう。

「コロナ後の世界」が日本でも議論にあがるようになったが、感染症によりダメージをうけた経済と社会の復興のための対策が新たな感染症のリスクや感染症の拡大を生じさせるようなものであってはならない。医療や公衆衛生の体制強化、拡充はもちろんのこと、問題を生じさせた元の社会経済のありように戻るのではなく、脱炭素で、レジリエントな持続可能な社会と経済を新たに構築する「グリーン・リカバリー」の視点がきわめて重要だ。
 そして、気候変動対策もグローバル化した世界での感染症対策も、それが効果をあげ、危機を乗り越えるには、すべての国の、みなの連携、協力こそが必要である。

「健康か、経済か」「環境か、経済か」という単純な二項対立で考えていては問題を適切に把握できないし、解決もできない。相互に、複合的に連関するこれらの問題の統合的解決を組み込んだ経済、社会のありようを探り、その実現を目指すほかない。SDGsは、私たちが目指したい社会のありよう、共通の価値を示すものであり、その実現を通じて、より持続可能な経済社会システムへと転換を促し、導くことにある。こうした状況の中で、あらためてSDGs本来の価値と意義が問われているように思う。

東京大学未来ビジョン研究センター教授・高村ゆかり氏
【略歴】

たかむら・ゆかり 島根県生まれ。専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学。名古屋大学大学院教授などを経て現職。日本学術会議会員、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員、中央環境審議会委員、東京都環境審議会会長なども務める。

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