新型コロナで遅れる臨床試験、揺らぐ製薬業界
新型コロナウイルスの感染症拡大を受け、医薬品の開発やサプライチェーン(供給網)への影響が懸念されている。製薬各社はグローバルに拠点展開し、開発のほか原料調達、生産、販売の体制構築を進めてきた。日本で新規感染者数は減少傾向にあるが、海外では感染拡大が続く地域もある。流行が長期化することで、開発の遅れや供給体制が揺らぐ可能性がある。(大阪・中野恵美子)
【販売戦略に影響】
国内外で患者の安全や医療機関の負担軽減に配慮し、医薬品の有効性や安全性を確認する臨床試験に遅れが生じている。発売時期が延期になれば、各社が設定する販売目標に影響が及びかねない。
大日本住友製薬は、開発中の抗がん剤「ナパブカシン」の結腸直腸がんを対象とした第3相臨床試験の結果判明について「(かねて予想していた)今夏より遅れるだろう」(野村博社長)と見通しを示した。主力の非定型抗精神病薬「ラツーダ」に次ぐ成長エンジンとして期待が高いだけに、販売戦略への影響が注視される。
同社は国内外で実施する臨床試験の一部で、新規の患者登録の中断を余儀なくされている。医薬品の供給については「在庫があるので現時点で支障はない」(同)とする。ただ今後のパンデミック(世界的大流行)を想定し「事業継続計画(BCP)について見直す」(同)方針だ。
塩野義製薬は欧米を中心に臨床試験の症例集積に遅延が発生している。症例データを集め、報告書を作成することが当局への申請過程で必要になる。対策として、今年度から症例数の国ごとの配分を見直し、患者が医療機関に来院せずに参加できる「バーチャル臨床試験」の実施を検討している。
【長期化も視野】
現行のサプライチェーンについては「(在庫があるので)今後6―9カ月なら乗り切れる」(手代木功社長)とする。だが「グローバルでの感染が長期化すれば原料調達や輸送のあり方を考え直す必要がある」(同)と方向性を見定める。
田辺三菱製薬は、現時点での影響は限定的とするが、「国際的に展開する後期開発品について影響が出てくる」(小林義広常務執行役員)と今後の動向を注視する方針。特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)や重度パーキンソン病などを適応症とした開発品が遅れる可能性がある。これらは海外での収益強化を目指し、21―22年度の市場投入を目指している。
国境を越えた感染症の拡大は今後も予測される。臨床試験や原料調達などを再検討し、グローバルでのリスク管理力を高めることが求められている。