新型コロナ治療薬、「早期承認」と「安全」どう両立するか

  • 1
  • 2

新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化に向けた動きが活発だ。政府は海外で使われている抗ウイルス薬「レムデシビル」を特例承認した。富士フイルムの「アビガン」も5月中に承認する方針を示しており、治療薬の早期承認に前向きだ。ただ、こうした政府の方針に慎重な意見も上がる。治療薬を併用することで相乗効果を狙う検討も始まった。治療法の早期確立と慎重な判断の両立が求められる。(取材・安川結野)

【増殖を抑制】

厚生労働省は、海外の承認実績をもとに国内使用を認める特例承認をレムデシビルに適用した。米ギリアド・サイエンシズが開発したレムデシビルは、核酸アナログ製剤という種類の医薬品で、ウイルスの遺伝子の構成成分に似た構造を持つ。新型コロナは遺伝子としてリボ核酸(RNA)を持っており、レムデシビルはRNAの複製を阻害することで増殖を抑制する。

【他の薬と併用】

作用が異なる治療薬を組み合わせることで、より高い治療効果を得られることが最近の研究で明らかになってきた。国内承認された治療薬はレムデシビルのみだが、承認が増えれば効果の高い治療法の選択肢が増える可能性がある。レムデシビルは米国立アレルギー・感染症研究所で、炎症を抑える薬との併用効果が検証されている。

アビガンも、他の薬との併用で治療効果の向上が期待される。東京大学医学部付属病院では、アビガンと、日医工の急性膵炎(すいえん)治療薬「フサン」を併用する臨床研究が始まった。

【細胞へ侵入阻止】

アビガンは細胞内のウイルス遺伝子の複製を阻害してウイルスの増殖を防ぐ。感染後の細胞内で、ウイルス増殖の段階に作用する薬剤だ。一方のフサンは、ウイルスがヒトの細胞へ侵入する過程を阻止する作用があると考えられている。作用点の違う治療薬を用いることで、相乗効果が期待される。フサンは血栓を防ぐ作用も持つため、重症化の予防効果も見込まれる。

日医工の田村友一社長は、アビガンとの併用治療について、「単体で使うよりも高い治療効果があると期待している」と話した。

厚労省、審査大幅省略

アビガンを巡っては、藤田医科大学が行っている特定臨床研究において、安全性や適正が検証中だ。

【早期承認後押し】

政府は新型コロナ感染症治療薬の早期承認を後押ししている。厚労省は12日、同治療薬の審査を条件付きで大幅に省略する通知を出した。一定の条件を満たす臨床研究が対象で、有効性や安全性の結果を基に承認審査を行うものだ。通常の医薬品は臨床試験の結果が承認に必要だが、この仕組みにより、同治療薬やワクチンの審査を迅速化し、国内で使用可能な薬を早期に増やしたい考えだ。

【医師会緊急提言】

今後の新型コロナ感染症治療薬の承認には、手続きを簡略化する仕組みが多く活用される見通しだ。しかしこうした政府の方針に、日本医師会COVID―19有識者会議からは「有事といえども科学的根拠の不十分な候補薬を治療薬として承認すべきでない」という緊急提言が出されるなど、専門家からは慎重な対応を求める声が相次いでいる。医薬品の安全性は早期に判断できるものではなく、長期的な情報収集と慎重な検証が本来は必要だ。政府専門家会議の尾身茂副座長も「治療薬、ワクチンについては有効性と安全性について適切な審査が必要」と見解を示す。

治療薬の実用化には迅速な承認制度が欠かせないが、同時に安全性の見極めと、使用後の適切な評価が求められる。

日刊工業新聞2020年5月22日

関連する記事はこちら

特集