JALとANA、かつてないダウンバーストの着陸点

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供給過多になるため、空港には飛ばない飛行機が並ぶ

順調に成長を続けてきた航空業界を、かつてないダウンバースト(下降噴流)が直撃している。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で移動、渡航が制限され、航空需要は蒸発。市場環境の激変と長期化は、航空各社の経営に致命的なダメージとなりかねない。運航規模縮小などコスト圧縮に努めるが、採算割れを避けられず、資金流出は止まらない。収束を見通せない中、コロナ後の生き残りをかけて各社の危機対応力が問われている。(小林広幸)

国際線15億人減

4月21日、豪航空2位のヴァージン・オーストラリアが事実上の経営破綻を発表した。同社は1月に全日本空輸(ANA)とコードシェア(共同運航)を含む包括提携を結び、3月には羽田空港乗り入れも予定していた。もともと収益性に課題があったとはいえ、急激な需要減がダメ押しとなった形だ。

国連の専門機関、国際民間航空機関(ICAO)は4月30日に、20年の航空旅客予測を明らかにし、収束が秋以降となった場合、国際線の旅客は前年に比べて15億人減り、供給座席も4分の3近く減少すると試算した。

新型コロナウイルスの影響で旅客数が大幅に落ち込んだ(羽田空港に駐機中の旅客機)

成田空港、滑走路半分閉鎖

成田国際空港(NAA)の田村明比古社長は4月28日、オンライン会見で「第二次世界大戦以降、最大の危機だ」と表現した。3月に成田を出国した国際線旅客は前年同月比73%減。需要低迷は「相当期間継続する」(田村社長)と見ており、4月12日からAとB2本の滑走路のうち、B滑走路を閉鎖中だ。

羽田空港、ターミナル集約

一方、羽田空港も4月11日に第2ターミナル(T2)で国際線運用を休止した。当初、3月29日からの夏ダイヤ期間に欧米線をはじめ、国際線の大幅増便が計画されていた。同日、国際線施設を供用開始したT2では、初日こそ8便が出発したものの、徐々に運休が広がり、第3ターミナル(旧国際線ターミナル)に集約している。

世界の航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)は4月14日、20年の国際線・国内線合わせた旅客収入の減収規模が3140億ドル(約33兆5000億円)と予測した。各社の旅客収入は前年比55%減少する計算だ。3月24日には減収規模を2520億ドル(約26兆9000億円)と試算していたが、ひと月経たずに予想を引き下げた。

国内航空各社が加盟する定期航空協会は、2―5月に加盟社の減収が5000億円規模になる見通しを示す。3月に年間の減収見込みを1兆円規模としていたが、4月には2兆円に膨らむ可能性を言及するようになった。

コスト圧縮急ぐ

航空関係者の多くは移動需要の減少を、感染拡大下での渡航制限による一時的なモノとは捉えていない。コロナと共生する期間「ウィズコロナ」では、以前ほど旅行や出張の需要を見込めないほか、経済停滞による需要押し下げも懸念される。

ANAホールディングス(HD)の福沢一郎取締役は「国際線のリカバリーは相当ゆっくりになる」と見る。IATAや定期航空協会の見通しは、おおむね8月までの収束を前提に、年度末には5―7割まで需要が回復するシナリオだという。

航空業界のような固定費型のビジネスモデルでは、一定程度の利用率がないと収益を上げられない。国内大手2社のロードファクター(有償座席利用率)はコロナ前、7―8割超で推移していた。4月は、ANAが国内線で2割以下、国際線で2割強。日本航空(JAL)が国内線で2割強、国際線で15%程度と散々たる状況だ。

需要に合わせて機動的に運航規模を抑制して利用率改善を狙うのが王道だ。ただ、公共交通機関として最低限のネットワークを提供し続ける責務がある。両社は新幹線と競合する路線や、他社が就航する地方路線の運休にも踏み切っている。

羽田空港第2ターミナル国際線施設。3月29日供用初日から欠航が目立った

ANA、一時帰休4万2000人

ANAHDの福沢取締役は4月28日の決算会見で「4―5月に1000億円規模のコスト対策を構えている」と明かした。このうち生産量(運航規模)抑制による貢献は600億円と見積もる。次いで大きいのが人件費の圧縮だ。グループ各社で一時帰休を始めており、対象は4月末で22社3万5000人。5月末には35社4万2000人まで拡大する。

欧エアバスの超大型機「A380」の受領も延期した。7月からは3機体制でハワイ線に1日2往復就航する計画だった。今後の事業計画を立てづらい環境下で「機材計画は、より保守的」(福沢取締役)とする考えだ。

JAL、設備投資500億円削減

JALの菊山英樹取締役は「毎週のように供給計画を見直している」と話す。生産量の抑制で5月のロードファクターを10ポイント程度改善させる見通しだ。加えて人件費、広報宣伝費、外部委託費、IT経費など固定費600億円の削減を目指す。

当初2000億円を想定した設備投資も航空機300億円、地上投資ほか200億円の計500億円削減する計画だ。国内線に導入を始めたエアバスの大型機「A350」は「更新していくことが合理的」(菊山取締役)として計画通り進める。

手元流動性確保 融資枠を拡大・社債発行

コスト削減の手を尽くしても当面、月当たり数百億円規模で資金流出が避けられない。手元資金の確保は最大の経営課題だ。政府は航空会社への緊急経済対策として、着陸料の支払い猶予に加えて日本政策投資銀行(DBJ)の危機対応融資活用も決めている。

ANAHDは3月末で流動性資金が2386億円。1000億円を借り入れ、1500億円のコミットメントライン(融資枠)は5000億円まで拡大。DBJとは3500億円の融資を協議しており、計9500億円の手当にめどが付いた。

JALは3月末時点の現預金残高が3291億円。社債などで3―4月に1043億円の資金調達を実施済みで、追加の資金調達についても調整中だ。

菊山取締役は「公的支援を否定しないが、最初にすべきは自助努力、自力調達だ」と話す。

旅客需要の低迷に、輸送需要の旺盛な医療物資など貨物も客席で運ぶ

危機の足音も…

ANAHDの片野坂真哉社長は1月16日、日刊工業新聞の取材で破綻から10年たったJALとの今後の関係について「伍(ご)していく。人口1億2000万人の国に2社。“不況”が来た時にはどちらかが倒れるぐらいだ」と指摘していた。また、出資しながらも共同運航が実現していないスカイマークについて「需要が順調で(ANAを)頼らなくても大丈夫だった。航空は突然、原油が上がるし、“不況”も来る。いつでも必要なら用意がある」と話していた。

取材は国内初の新型コロナ感染者が確認された日。その頃、航空業界はいよいよ目前に迫った羽田空港国際線の増便準備に追われていた。

一方、経営者にはすでに危機の足音が聞こえていたのかもしれない。

日刊工業新聞2020年5月15日

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