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脱炭素…なぜ日本企業は“周回遅れ”になったのか、NHK番組プロデューサーの視点

 

2020年、二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロを目指す「パリ協定」が始動する。すでに海外企業は脱炭素への移行で先行し、日本企業は“周回遅れ”と指摘されている。なぜ日本企業は出遅れたのか、国内外で環境問題を10年以上、取材するNHKエンタープライズの堅達京子エグゼクティブ・プロデューサーに聞いた。

-気候変動問題を長く取材し、感じていることは。
「2100年や2050年に起きる温暖化被害を防ごうというのが、以前の意識だった。それがこの数年で40年、30年、そして目の前の危機へと変わってきた。日本での自然災害による保険金の支払い額は18年が約1兆6000億円、19年は2兆円以上と見込まれている。まさに“悪魔の予言”が当たっている」

-ドキュメンタリー番組「脱炭素革命の衝撃」(17年放送)によって気候変動問題への国内外の温度差を浮き彫りしました。
「17年のCOP23(気候変動枠組み条約第23回締約国会議)を取材すると、国際的な大企業の経営トップが脱炭素支持を表明していた。しかも目標が野心的であり、スピード感があった。物流大手の独DHLは配送車を電動化しようと、自ら電気自動車の生産を始めた。このスピード感は日本企業にはない」

-映像を通して海外企業の本気度が伝わってきました。
「番組で『脱炭素に取り組まないと、次はサプライチェーンから外されると突きつけられたと同じだ』とリコーの加藤茂夫さんが語った言葉に対し、強烈に彼我の差を感じた。海外の大企業はサプライヤーにも再生可能エネルギーを使うようにプレッシャーを与えていた。そして、常に日本が遅れる構図をあった」

-日本企業が遅れた理由は。
「企業に悪気はない。気候変動問題への基礎知識に差があり、非常事態という認識も足りなったのだろう。海外は産業革命前からの気温上昇を1・5度未満に抑えようとギアを上げた。実現には急勾配な排出削減が迫られるが、このイメージにも日本企業は追いつけていないのだろう」

-欧米企業は自分たちのビジネスが自然災害によって脅かされていると語ります。
「欧州は03年の熱波、米国は05年の巨大ハリケーンで甚大な被害を受けた経験が大きい。いま、欧州ではCO2を排出する飛行機の利用を恥ずかしがる“飛び恥”という言葉が広まっている。実際、欧州を取材で回ると鉄道は満席だった。KLMオランダ航空も鉄道の利用を呼びかけていた。英の人気ロックバンドも世界ツアーを取りやめると言い出した。自身のビジネスチャンスを捨てるくらい気候変動への危機感が強い」

-日本企業は追随できますか。
「目標を引き上げようとしない日本は、環境先進国と言えない。このままではビジネスの世界で土俵に上げてもらえず、下手をしたら犯人扱いされる。5年後に世界が激変している可能性があり、スピードがないと取り残される。ただし、企業だけも責めても仕方なく、政府の政策も課題だ。市場を変えるような政策を打ち出せてない」

-次の番組は。
「19、20日夜のBSスペシャルで大都市を襲う大水害、森林の大火災をテーマとした番組を放映する。どちらも気候変動が影響しており、遠い国の話ではない」

NHKエンタープライズの堅達京子エグゼクティブ・プロデューサー
日刊工業新聞2019年12月10日記事に加筆
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
気候変動対策をビジネスチャンスと伝えてきた自分が恥ずかしくなる。自然災害が多発すると、巨大企業でも事業の継続が難しくなる。その危機感が欧米企業を突き動かす。日本企業の経営者にも気候変動問題を語ってほしい。危機感を伝えると消費者からも共感され、企業価値も向上する。

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