果物を冬眠させる?おいしさをそのまま届ける三井化学の包装材がすごい!
三井化学は、果物を数カ月冬眠させて新鮮な状態を保つ特殊包装資材「アドフレッシュ」を2020年度中に上市する。JAグループなどに販売する。例えば、秋に収穫したシャインマスカットなどを、より高値で取引される中国の春節(旧正月)シーズンに輸出できる。青果物ビジネスの可能性を広げる素材になりそうだ。(梶原洵子)
【もっと深く眠る】
日本でも人気のシャインマスカットは6カ月、富有柿は4・5カ月、リンゴ(王林)は3カ月。アドフレッシュに包んで0―1度Cで保存すると、収穫時の状態を長期間保てる。「低温にするだけでも冬眠状態になるが、アドフレッシュを使うともっと深く眠る」と、フード&パッケージング事業本部企画管理部新F&P事業開発グループの諸橋慎サブグループリーダーは説明する。
秘密は、果物が最も心地よい酸素(O2)・二酸化炭素(CO2)の濃度に管理できること。同フィルムには汎用樹脂よりも指数関数的にガス透過性の高い特殊樹脂を配合している。この樹脂はO2に比べCO2を3―4倍多く通す。収穫後の果物の呼吸で増えるCO2を袋の外に出し、酸欠状態を防ぎつつ、必要なO2濃度を保つ。そして果物に最適な空気バランスで平衡状態にして低温下に置くと、深い眠りにつく。
既存の鮮度保持フィルムには微細な穴があり、ガスの透過量を調整しているが、ガスの種類までは調整できない。アドフレッシュに物理的な穴はない。「ガスを通しやすい特殊樹脂の配合比率やフィルム厚を調整し、果物の種類ごとに最適な状態にできるようにしている」(佐久間一騎同グループ主席部員)。
【“レシピ”作成】
また同社は、より長持ちできるように、農薬散布時期や収穫方法、アドフレッシュの袋の締め方、貯蔵に不向きな個体の選別方法まで、果物の種類ごとに長期貯蔵の“レシピ”を作成した。半年保存のシャインマスカットもレシピのおかげだ。
長期貯蔵は空輸から長時間かかる船便への切り替えにも役立てられる。特に果皮の柔らかなイチゴは航空機が着陸する衝撃に弱い。輸送費の安い船便は輸出できる果物の量や種類を広げられそうだ。
果物の長期鮮度保持フィルムは完全なブルーオーシャン。市場規模10億円を想定し、まず市場の10%の売り上げを目指すが、市場がどんな規模になるかは想像できない。果物輸出だけでなく、トウモロコシの輸送、花や果物の輸入にも使える。
【食品ロスなくす】
一番重要なことは、おいしいものをおいしい状態で食べ、食品ロスをなくすこと。諸橋サブリーダーは、「産地で食べる果物は驚くほどおいしい。これを味わってほしい」と期待を寄せる。