“印刷会社=紙”だけじゃない!大手の成長領域を比べてみた

ペーパーレス化の波をどう乗り越える?

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大日本印刷が開発した樹脂ガラス

デジタル技術の進展によるペーパーレス化で印刷市場は縮小が続く。その環境下で総合印刷各社は社会の変化や課題にさまざまな商機を見いだしている。超スマート社会「ソサエティー5・0」や働き方改革、環境問題などに注目する各社の成長戦略や取り組みに迫る。(国広伽奈子)

【モビリティー照準 培った技術の知見、大いに生かす】

総合印刷は出版印刷や商業印刷といった既存の印刷事業を中心にコンテンツの制作やマーケティング、セキュリティー、包装やエレクトロニクスと事業の幅を徐々に広げてきた。紙の需要減少が続く中で、特に凸版印刷と大日本印刷の大手2社はこれらの事業に加えて、成長が見込める新たなビジネスの創出や育成に力を注いでいる。

大日本印刷は紙器や軟包装への進出に続く“第3の創業”がテーマ。実現に向けて注目している領域の一つが、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やMaaS(乗り物のサービス化)を意識したモビリティー分野だ。

自動車向けビジネスはカタログの印刷に始まり、建装材の技術を生かして内装用の加飾フィルムへと幅を広げてきた。近年はリチウムイオン電池用バッテリーパウチの引き合いも強く、電気自動車(EV)が拡大すればさらなる需要増も見込める。

EVや次世代モビリティーを見据えた新製品の開発も進めている。曲げやすくて丈夫な樹脂ガラスや異素材を簡単に接着できるフィルムは、車体の軽量化や作業効率の向上などが期待できる。タッチパネルディスプレーの機能を備えた意匠性の高い「加飾パネル」は、次世代モビリティーの車内空間や役割を意識して開発した。

拡大が見込める市場だが、参入企業も多く「強みや特長がなければメーカーは採用しない」(山口正登専務執行役員)。同社の場合は事業方針の中心に掲げる「P&I(印刷技術と情報技術)」が他社との差別化のカギを握る。

既存事業で培ってきたコーティングや微細加工、高精度なセキュリティーといった技術は模倣が難しい。プラグを使わない自動給電用のコイルやカギを使わずに利用できる電子キーといった「自動運転の中のエレクトロニクス」(山口専務執行役員)の領域でも、既存事業の知見を大いに生かせると見込む。

【中小のDX支援 デジタル化底上げ】

凸版印刷は製造情報の管理や見える化などを支援する(「ナビネクト」活用現場のイメージ)

凸版印刷の成長戦略はデジタル変革(DX)がキーワードだ。ターゲットの一つが製造業。大手システム構築(SI)事業者を中心に競争が激しい領域だが「中堅・中小企業を中心に支援して、産業界デジタル化の底上げを図る」(柴谷浩毅デジタルビジネスセンター長)ことで独自の立ち位置を確立する。

2019年に提供を始めた製造業向けのデジタル化支援サービス「ナビネクト」がビジネスの軸になる。製造情報の管理や見える化など、10領域について約130のアプリケーション(応用ソフト)をニーズに合わせて提供するソリューションで、多様な業種のニーズや複雑な製造工程にも対応できる。事業の幅広さや工場用システムの内製化といった、自社の経験を生かして開発した。

多くの中堅・中小企業は「(DX以前に)アナログな作業を改善する『デジタルパッチ』のニーズや課題が多い」(柴谷センター長)。ナビネクトで要望に一つずつ応えることで、将来凸版の強みを生かす布石になる。

印刷会社の最大の強みは多くの企業との関係性。さまざまな企業のデジタル化に携わることができれば、企業の垣根をまたいだデータ連係といった新たなビジネス創出の可能性も生まれ、受注産業からの脱却につながる。

【「環境問題」に対応 バイオマス素材など訴求】

大日本印刷の「DNP断熱紙カップ HI―CUP 電子レンジ対応」

既存事業の中でも将来の成長につながりそうなキーワードがある。例えば環境に配慮した容器やパッケージの開発は、地球温暖化や海洋プラスチック問題を受けて注目度が高まっている。最近では、大日印がレンジの加熱で焦げ付かない紙製カップや胴体部分に紙を用いたラミネートチューブを開発。凸版は生分解性プラスチックを用いたレジ袋を開発している。

歯磨き粉用チューブで国内トップシェアの共同印刷も、環境負荷低減に向けてラミネートチューブの薄肉化やモノマテリアル化、バイオマス素材の採用などを検討している。拡大に力を入れている軟包装では、プラスチック使用量削減や消費期限の延長による食品ロス削減などの利点を訴求している。

共同印刷は生活・産業資材系事業の拡大を成長戦略の柱の一つに掲げる。主力のチューブは東南アジア市場の開拓に力を注ぎ、環境配慮型パッケージや高機能製品などの新製品にも同時に力を注ぐ。特に医薬品向け製品は、高齢化社会の進展で市場の伸長が見込まれる領域だ。

ラミネートチューブの製造体制を拡充するため昨年に完成した和歌山工場3号館(共同印刷)

【価値創出できる体制へ】

それぞれが思い描く成長戦略を実現するため、各社が認識している共通課題が“受注体質”からの脱却だ。自ら価値創出できる体制を築く取り組みも進んでいる。

大日印は19年に人事制度を改革。イノベーション創出を目的とした再雇用制度を利用して4人(現時点、グループ会社も含む)が入社した。ビジネス創出に向けて、凸版は社内コンペを定期的に開催している。これまでに累計563人の社員が参加し、アイデアの事業化に向けた実証実験も進めている。

凸版印刷の新規事業の創出に向けた社内コンペ

日刊工業新聞2020年3月30日

COMMENT

国広伽奈子
デジタルメディア局
記者

各社さまざまな事業を展開していますが、まだまだ「印刷=紙」というイメージで受け止められやすいようです。もちろん出版印刷や商業印刷は事業の大きな柱ですが、これらの成長事業の他にも例えば業務委託(BPO)や金融関連ビジネスは働き方改革の観点で引き合いが強まっています。

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