新型コロナで市場変化、「遠隔コミュニケーション」普及加速

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Enkacの遠隔対話ロボ。首振りや移動機能を備える(画面後ろが操縦コクピット)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、「遠隔コミュニケーション」の普及が加速すると期待される。テレワークに懐疑的だった職場も半ば強制的に遠隔勤務を経験し、工夫次第でそこまで難しい働き方ではなかったことを実感する。ペーパーレス化のように便利なシーンには使うなど、今後はありふれた選択肢になると見込まれる。テレビ会議やビジネスチャットなどの遠隔コミュニケーションは米国勢が強く競争の激しい市場だ。日本のスタートアップなどの取り組みを追った。(取材・小寺貴之)

■情報デジタル化、進化するビジネスモデル

「遠隔コミュニケーションが広がることは自然の摂理。だが新型コロナで想定以上に前倒しされた」と時空テクノロジーズ(東京都港区)の橋本善久社長は説明する。同社はテレビ会議や会話などのサービスを開発する。テレビ会議サービス「Vmeets」はアバター(CGキャラクター)を着て会話でき、文字おこしサービス「Logmeets」では会話内容を音声認識でテキストに直し、編集して共有できる。画像から表情を認識してアバターに反映させ、会話テキストは検索や翻訳が可能。シンプルなユーザーインターフェースの裏側ではいくつもの人工知能(AI)技術が動いている。

だが橋本社長は「ベンチャーキャピタルからは『既にスカイプがある。フェイスブックがある』と問われてきた」と振り返る。コミュニケーションツールは米国の巨大IT企業を生み出し、またそれらの企業がコミュニケーションツールに投資して顧客接点を寡占しようとしている。

それでもテレビ会議は「Zoom」、ビジネスチャットは「Slack」など、新たな企業のサービスが台頭した。コミュニケーションツールはシェアを押さえても、新技術やビジネスモデルで入れ替わり得る世界だ。音声認識や翻訳などのAIエンジンの開発は巨大ITが先導するが、パーツを組み合わせてリーズナブルなサービスに仕上げる部分でユーザーの獲得速度が変わる。

時空テクノのVmeets。4人でアニメ調アバターを着てテレビ会議できる

時空テクノは打ち合わせの最中に、要点や決定事項を抜粋し議事録や資料を作れる簡便さを売り込む。バーチャルモデルのような高品質アバターでのテレビ会議やテキスト処理技術を統合していく。

会話の記録を残せると日報や週報の作成も簡便になる。顧客情報管理(CRM)との連携は定番だ。FRONTEOはCRMツールを使い、営業時のコンプライアンス違反を探すAI監査サービスを提供する。武田秀樹最高技術責任者はメールや日報などの「膨大な情報の中から不適切な情報提供を人手で探すのは限界がある」と指摘する。人間の監査ノウハウをAIに落とし込むと、一定の判断基準で網羅的に不適切行為を絞り込める。

将来は高圧的なクレームなどのハラスメント検出もできるようになると見込まれる。記録が残らないリアルのコミュニケーションだけではリスクがあり、業界によっては一度デジタルを通した方が便利で安心という文化が根付く可能性もある。

■ロボがアプローチ、接客・医療現場でも

テレワークが広がり遠隔前提のビジネス基盤ができると、テレビ会議だけでは足りない場面が顕在化する。遠隔コミュニケーションロボットはここに商機を見いだす。Enkac(東京都千代田区)は、デジタルサイネージ用の大型ディスプレーにスタッフを映すロボットシステムを5月にも発売する。首振りや移動機能を備えた。

小売店での呼び込みや空港での迷子案内では、接客スタッフの側から来場者にアプローチする必要がある。星野裕之社長は「指向性スピーカーを使うと30メートル先の人も振り向かせることができた」と胸を張る。指向性スピーカーでの声かけは、環境音に溶け込まず、自分に話しかけられたように聞こえる。美しい顔を大きく映し出すだけでも、来場者の目をひく効果がある。

遠隔化で少数のスタッフが複数の拠点を掛け持ちできる。夜勤や休日出勤の人繰り、来場者の増減に柔軟に対応できる。小売りやホテル、交通機関での利用を想定していたが、新型コロナで「医療関係者からの引き合いが強い。マスクで顔を隠さずに応対でき、感染を広げるリスクもない点が評価されている」(星野社長)と手応えは大きい。映像や音声をデジタル化するため拡張現実(AR)やAI技術とも相性がよい。接客スタッフの肌の色や目鼻立ちを変えたり、来場者に接客キャラクターや容姿を選んでもらうことも可能になる。

■地方でも多言語対応、外国人観光客を案内

ANAホールディングスは遠隔コミュニケーションロボット「newme(ニューミー)」の提供を今春にも始める。レンタルやサブスクリプション(定額制)モデルで月額を数万円台に抑える。アバター準備室の梶谷ケビンディレクターは「製造を日本に移して空輸や量産コストを抑える。将来は携帯電話と同程度の利用料で普及させたい」という。

三菱地所との実証実験では外国人観光客への案内にニューミーを活用した。地方の観光案内所では多言語に対応した人材が不足しており、遠隔サポートによって対応言語を充実できる。ドアの解錠や施錠、照明も遠隔化し、無人で開所できるようにした。三菱地所街ブランド推進部の大谷典之専任部長は「災害時の遠隔営業や在宅勤務者の利用など柔軟な働き方を実現できる」と期待する。

ANAと三菱地所が外国人観光客への案内に活用する「newme」

ANAのアバター構想は新型コロナの感染拡大以前から進めてきたものだ。梶谷ディレクターは「今回テレワークが広がり、同時に課題も顕在化しアバターのニーズが高まる。工場で現物を確認するなど、出社と同じ体験ができる」と説明する。

パソコンやモバイル端末で完結するコミュニケーションツールでさえ利用料がかかると敬遠する企業もある。会議の文字おこしや議事録作成も、その手間が人件費換算されていない組織は少なくない。時空テクノの橋本社長は「通勤に使う交通費や時間を含めると生産性は向上する」とそろばんを弾く。さらにロボットなどの実機を用いると費用対効果はより厳しくなる。それでも一度デジタルを通すことでAI機能を適用でき、データが資産になる。ロボットなら能動的にデータを集められる。新型コロナで遠隔市場が変わるか注目される。

【追記】

一方で、コミュニケーションツールのベンチャーは、巨大ITの0円焼き畑やM&A間引きに抗いながら大きくなれるかどうか課題です。良いツールなら広がる訳ではなさそうです。日本から見ていると広がったツールに後付けの説明が付き、聞くほどの便利さを実感しないことも多いように思います。これは既存の0円サービスに依存しているからでもあります。売る力が大切で、どこかで日本から世界をとりにいく判断が求められます。日本のベンチャーキャピタルの資金力だけでは、チキンレースに挑むのは難しいかもしれません。ですがユニコーンやプラットフォーマーを産み育ててきた市場を諦めることもできません。

日刊工業新聞2020年3月9日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

会話中の表情とテキストのデータで、どんなAI機能が作れるでしょうか。ビジネスシーンではアイスブレイクに使うジョークを品評して生成できるかもしれません。アハ体験がカウントできれば、社内の企画会議や社外との折衝でメンバーのクリエイティビティを可視化できるのかもしれません。交渉記録のトレーサビリティーやコンプライアンス管理、監査などは、リアルの会話のネガティブな要素を解消するものです。コミュニケーションをクリエイティブにして、リアルなコミュニケーションには後戻りできないインパクトを与えたいところです。

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