新型肺炎「市中感染」の拡大を防ぐニッポンの見識

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国立感染症研究所で分離された新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)

新型コロナウイルスによる肺炎感染の世界的な拡大が、岐路にさしかかっている。中国では武漢市のある湖北省以外の感染者の増加が鈍化傾向にあると中国政府は強調。中国以外の国・地域の感染者の増加も山を越えたようにみえる。一方、日本は政府が新たな緊急対応策をまとめたほか、専門家から「市中感染」を警戒する声も聞かれる。世界経済への影響も懸念される。収束か再拡大か、ここ数週間の動向が今後を左右する。(取材・安川結野)

「大流行はまだ広がる可能性が高い」

世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスにより引き起こされる肺炎などの症状を「COVID―19」(コビッド・ナインティーン)と命名した。12日にスイスのジュネーブで記者会見したWHOのテドロス事務局長は「大流行はまだ広がる可能性が高い」と警戒を呼びかけた。

日本国内では武漢市に訪問歴がある人の感染が1月に確認された。それ以降、感染者が乗ったクルーズ船の乗客らを対象に行った検査でも陽性反応が出るなど、感染が確認された人は増え続けている。一方でクルーズ船や中国からのチャーター便以外から国内で重症化した患者はいない。現在、国内の新型コロナウイルス感染患者は感染経路が推定できる状況であり、厚生労働省も国内の流行は認められていないとしている。

新型コロナウイルスによる集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」

ただ今後、市中へ感染が広がる可能性はゼロではない。複数の専門家によれば「新型コロナウイルスに感染し、重症化して肺炎になる場合もあれば、軽症で診断されない患者、医療機関にかからずに回復するような人もいる」という点で意見が一致しているが、どのような状態の人から感染が広がるかはまだ分かっていない。

ワクチン開発、年単位の時間 幅広の検査体制に

こうした中、国立感染症研究所感染症疫学センターの鈴木基センター長は「どこで感染したのか不明な患者が出てくると想定した体制作りが必要だ」と話す。新型コロナウイルスの検査は、ウイルスに特有な遺伝子の配列を検出する手法「PCR法」が用いられているが、検査時間や装置の数など、1日に検査できる数は限られる。こうしたことから、軽症の患者や症状がない人まで全員を検査することは臨床では現実的ではない。

しかし、流行の全体像把握や拡大を食い止めるには、「検査の対象となる患者の定義をやや幅広に決め、検査をするべきだ」と鈴木センター長は主張する。

新たなワクチンの開発も困難を極める。国立感染症研究所感染病理部の鈴木忠樹部長は「新しいワクチンの開発には数千から数万の患者を対象とした治験が必要。インフルエンザのように毎年流行する感染症のワクチンですら開発に年単位の時間がかかる」と、ワクチン開発の現状を説明する。ウイルスを簡易的に検出する検査キットの開発は進んでおり、「3月末頃を目指して検査キットを作製している。企業と協力してまずは分離されたウイルスで検出感度や正確性を調べ、患者に実際使いながら検証する」(鈴木部長)としている。

確立された治療法がない中、感染症の拡大を防ぐ一般的な手段として手指衛生による接触感染の予防と、せきエチケットの徹底が呼びかけられている。東京医療保健大学の菅原えりさ教授は「せきをする口を手で覆うのではなく、マスクや腕を密着させるなど、飛沫(ひまつ)を外に出さないことが感染予防には重要」と説明する。手で覆うだけでは飛沫は完全に抑えられず、さらに手の接触感染により広がってしまう。せきエチケットを守って飛沫感染を防ぎ、さらに手指の消毒などで接触感染をしないことが感染症拡大予防に効果的だという。

日本感染症学会の舘田一博理事長は「飛沫や接触による感染が明らかになっているので、まずは対策をしっかり取るという方向性は変わらない。国民を巻き込みながら、対策を徹底する」と強調する。収束の兆しが見えず感染症の流行に不安が募るが、水際での封じ込めには国民一人ひとりの基本的な行動が大きな意味を持つ。

拡大防ぐ「基本の徹底」 手指衛生・マスク、対策が大事

コロナウイルスは、一般的には風邪のような症状を引き起こす。新型コロナウイルスは高い確率でウイルス性肺炎を引き起こすものの、同じコロナウイルスである重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスや中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスほどの重症化リスクはないという見方が強い。

しかし、国立感染症研究所の鈴木センター長は「新型コロナウイルスによる感染症が風邪と同じと判断するのは時期尚早だ」と慎重な姿勢をとる。高齢者や基礎疾患のある人で重症化リスクが高いとされたが、中国以外では中年層の患者も多く、米国では30代の重症患者が確認されている。

マスクを装着して都内を観光する旅行者

臨床では風邪のような軽い症状のみの患者の中にどれくらい感染者がいたのかが分からない。死亡率や重篤化リスクといった正確な数字はまだはっきりしないが、鈴木センター長は「季節性のインフルエンザに比べ、重症な症状を引き起こす確率がやや高いのではないか」と推測する。

感染拡大を防ぐため、1日には新型コロナウイルスによる肺炎を感染症法上の「指定感染症」に定めた政令が施行された。これにより患者に対し入院、隔離措置を取ることが可能になった。同時に感染者の詳細な動向調査ができるため、国内の症例を精査することで、感染経路や感染期間、どのようにウイルスが体外へ排出されるかといったことが今後判明する可能性がある。日本感染症学会の舘田理事長は、「感染症学会としても、臨床医や研究医と連携しながら新型コロナウイルス感染症のエビデンスを作っていく」と話す。感染症の調査を進め、一刻も早い実態把握が求められる。

日刊工業新聞2020年2月14日

COMMENT

小川淳
デジタルメディア局
編集部部長

文中に「季節性のインフルエンザに比べ、重症な症状を引き起こす確率がやや高いのではないか」とコメントがありますが、新型肺炎の実態はまだよく分からないことが多いです。楽観論はもちろん禁物ですが、冷静に恐れることが必要です。メディアも含めて、冷静で正確な情報発信が求められます。

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新型肺炎

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