自動車メーカーの中国工場、そろり再開も本格生産見通せず
日系自動車メーカーが新型肺炎の感染拡大を受け、春節(旧正月)休暇明けに延期していた中国工場の運営再開にそろりと動きだした。ホンダや三菱自動車は10日、従業員が出勤し生産開始に向け準備を始めた。ただ業務は在庫確認などが主で本格稼働は見通せない。トヨタ自動車は一部で従業員が出勤したが、17日以降の再開方針は変えない。日産自動車は供給網の混乱で九州工場を一時停止する。各社の幹部は影響の長期化を懸念している。
ホンダは中国にある完成車工場七つのうち広州市の4工場の運営を10日再開し、今後、徐々に生産量を増やす方針。新型肺炎が発生した湖北省武漢市に構える残りの3工場は14日に運営を再開し、17日の週に生産をスタートする予定だ。マツダも10日、吉林省の工場でライン改修業務を始めた。日系自動車部品メーカーでもジェイテクトやショーワなど一部で生産再開の動きが出てきた。ただホンダの倉石誠司副社長は自社の工場について「まずは従業員の安全確保を最優先する。また部品在庫やサプライチェーンを確認する必要もあり、すぐにフル生産は難しいだろう」と説明する。
いすゞ自動車、日野自動車は、それぞれ10、13日としていたトラック工場の再開を17日以降に延期した。ホンダは中国の完成車工場では3日分の部品在庫を確保しており、「スケジュール通りに生産を再開していけば、新型肺炎の(生産への)影響はそれほど大きくならない」(倉石副社長)とみる。トヨタの白柳正義執行役員も6日の決算会見で「足元の(トヨタの工場)の稼働については継続できる見通しが立っている」と説明した。
ただ各社の幹部は一様に「問題の長期化」に懸念を示す。中国は「電子系や材料系など多岐にわたる自動車部品」(トヨタ幹部)を生産している。部品供給基地としての役割が機能不全に陥れば、中国国内に留まらず世界の完成車生産に支障が出かねない。実際、現代自動車は韓国3カ所の工場の稼働を11日まで停止する。また武漢市内は道路封鎖などで物流網に支障が出ており、同市に拠点を構える部品メーカーのヨロズは「今のままでは材料調達も、完成した部品の出荷もできない状況」(担当者)と明かす。
日系完成車メーカーは、中国から調達している部品の他国での代替生産の検討を始めた。自動車部品の中でも金型が必要な部品や、生産ラインに認証が必要になるような保安部品などは代替生産が難しい。仮にこうした部品を中国で生産できなくなれば、サプライチェーンへの影響は大きくなる。中国に生産拠点を持たないスズキも一部の部品で代替生産の検討を始めた。「2―3次部品メーカーまでさかのぼるとサプライチェーンが停止する可能性ある。注視していく」(長尾正彦スズキ取締役)と警戒する。
現地販売にも暗雲
中国の新車販売への影響も懸念材料だ。春節休暇中は、自動車販売店は基本的に休業する。このタイミングで新型肺炎の感染拡大が顕在化したため、現時点では新車販売へのインパクトは読めないが、マツダの梅下隆一執行役員は「春節休暇明け、間違いなく影響を受ける」と指摘し、トヨタ幹部も「現地は車を買うというムードではないだろう」と表情を曇らせる。
19年の中国新車市場は同8・2%減の約2577万台と2年連続の前年割れだが、調査会社マークラインズによると日系メーカーの合計販売台数は456万台(同2・7%増)と伸びた。勢いを維持したい日系メーカー。ホンダ幹部は「新型肺炎問題が長引いた時の影響をどう抑えるかが課題だ」と身構える。