「MSJ」6度目の延期、常に自問する三菱重工会長のモノづくり論

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「三菱スペースジェット」(三菱航空機公式サイトより)

三菱重工業は6日、子会社の三菱航空機(愛知県豊山町)が開発中のジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の初号機の納入時期を、従来公表していた2020年半ばから21年度以降に延期すると発表した。延期表明は今回で6度目となる。三菱航空機の水谷久和社長を4月1日付で会長、後任社長に丹羽高興常務執行役員(米国三菱重工業社長)を充てる人事も決めた。

今回の納入延期により最初に計画した13年から8年もの大幅遅れになる。三菱重工はスペースジェット事業で三菱航空機の株式の減損処理などを行い、19年4―12月期連結決算で特別損失として4964億円を計上した。

延期の理由について、三菱重工の泉沢清次社長は型式証明(TC)取得のための初号機の遅れを挙げた。テロ対策の飛行安全など機内配線の設計変更を行った負担が長引き、完成が19年から20年1月にずれ込んだ。飛行試験も遅れが避けられず、米国部品メーカーなどサプライヤーとの工程調整問題も発生した。

納期の遅れで、注文機数への影響も避けられそうにない。泉沢社長は米国サプライヤーなどとの工程調整作業で納入時期をよりはっきりさせたいとする一方、「安全な航空機を着実に開発することが当社の責務」と語り、役員の処分などは特に考えていないとした。

日刊工業新聞2020年2月7日

宮永俊一「最も大切なことはシンプルで変わらない」

いつの時代も、モノづくり企業にとって最も大切なことはシンプルで変わらない。社会が今、求めているモノを作り、改良を加えていくこと、および将来必要になるモノを予測し、開発する力を磨いていくことだ。

現在、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)がサイバー空間ベースのデータプラットフォーム事業から他の事業にも領域を広げているが、慌てることなく、これからは「どのようなモノが必要になるか?」「作り方はどう変わるか?」を落ち着いて考えるべきだ。

数理的な基礎能力が高い日本人には、デジタル時代への適応力は十分にある。長年育んできた品質管理などにおける優位性と、進化するAI(人工知能)などを調和させた形でモノづくりの過程に織り込み、細目に改良していくことで中期的には大丈夫ではないか。

さらに経営者には、それらの中期的適応に加え、「より深く考え、物事の本質を捉えて適時に方向性を示す」ことが求められる。そのような前向きな行動が次世代を担う人々を刺激し、彼らの活動がコト(安全、安心、幸せなどの追求)との融合度を増した高い次元のモノづくりに発展していくことを期待する。

デジタル時代になっても、やはりモノづくりは企業の総力の結集だ。現場から営業やスタッフ部門などの全員が理解し合い、おのおのの役割を果たして、時代に合った価値を提供していくことが企業の存在意義である。

とはいえ、デジタル化の進展により既存事業の価値にも大きな変化が生ずることは避けられない。長く収益に貢献した事業でも経済価値が失われつつあると判断した場合は、つらくとも続けるべきではない。

ただし、その際に経営者が留意すべきは、いかに事業の撤退や転換の対象となる当事者の痛みを緩和できるかだ。他社との協業・統合などさまざまな対策を進める人々のモラルを常に考えながら、企業全体が支えて、変えていく。リカレント教育の提供なども当然の義務だ。社会の中で成功し、その恩恵にも浴してきた大企業や企業グループにはその責任がある。

また、人々の思いが不安感の中でバラバラになるとモノづくりは必ず劣化し、企業や商品への信頼は失われていく。社員が自分の仕事に安心感と誇りを持っているだろうかと、経営者は常に自問しなければいけない。

宮永俊一三菱重工業会長

日刊工業新聞2020年1月31日

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