ゲノム解析で病気の「超早期発見と個別化医療」、東芝が抱くトップランナーの自負
全遺伝情報(ゲノム)解析が身近になりつつある。東芝は東北大学と共同で日本人に特徴的な遺伝情報を解析するツール「ジャポニカアレイ」を開発した。従来より短時間・低コストで遺伝情報を解析し、個人がどのような病気にかかりやすいか、どのような薬が効きやすいかを調べられる。創薬や健康管理の効率化を目標に東芝は複数の研究機関と同技術の実用化に取り組んでいる。
【スニップに焦点】
生物の設計図である遺伝子は約30億の塩基対から成る。これを全て解析するのが「次世代シークエンサー」という技術だ。しかし解析には約1か月の期間と高額の検査費用が必要だった。
「解析の鍵はスニップ(SNP)だ」とサイバーフィジカルシステム推進部新規事業推進室の米澤実室長は説明する。約30億の塩基対のうち日本人に特徴的な配列は約66万カ所。この部分をスニップ(SNP)と呼び、集中的に解析することで効率よく遺伝情報を明らかにできるという。
東芝が手がけるのは日本人のSNPの配列(アレイ)を検査するツール「ジャポニカアレイ」だ。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と共同で開発した。同社は従業員やその家族を含む約19万人分の遺伝情報を収集・解析しデータベースを作成。これを活用し今後は三つの方向で事業展開をにらんでいる。
一つは創薬分野だ。試薬の臨床試験の際、遺伝情報から効果を調べる。「遺伝子データに基づいてあらかじめ効く薬が選別できれば臨床試験や薬の処方を効率化できる」と米澤室長は展望を語る。
二つ目は生活習慣の改善の指導。「ゲノム健診」という考え方に基づき、健康診断の際に血液などから遺伝情報を収集。「飲酒を続けると〇年後に病気になる可能性がある」といった予測や対策を導くことを目指す。最後は企業の健康経営への活用だ。従業員の健康を守る企業経営は産業界で注目を集めている。他社が健康診断や人間ドックで従業員の遺伝情報を解析する際、東芝のデータベースやノウハウを活用できるという。
【新分野で攻勢】
一方、米澤室長は「遺伝情報の解析結果をどのように患者に返すか」と課題を指摘する。あなたはがんになりやすい傾向がある、などの結果をそのまま患者に伝えて終わりでは「あまりに無責任」(米澤室長)。解析結果を適切な治療につなげられるよう医療機関との連携も視野に入れている。
東芝は2016年に画像診断事業をキヤノンに売却したが、精密医療という新分野で巻き返しを図る。遺伝子解析や生分解性リポソームなどの技術を武器に、病気の“超早期発見”と患者一人ひとりの体質に合わせた“個別化治療”の実現を目指す。「これらの分野についてはトップランナーの自負がある」と米澤室長は笑顔を見せる。
19年6月にはがん遺伝子パネル検査が保険適用を受けるなど遺伝子検査は医療界で広がりを見せている。血液一滴、髪の毛一本から自分の健康状態や病気が全てわかる―そんな日は近いのかもしれない。