お金を稼げない男は“ヒモ”なのか?山崎ナオコーラさんが語る「小さな経済」

山崎ナオコーラさんインタビュー

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「気にしていいよ」と言いたい

―容姿や性差などへの差別などに対し、現代は「気にするな」という圧力が強いと思います。
『ブスの自信の持ち方』にも書きましたが、差別は社会の問題なのに「気にするな」というのは違うと思います。スルー力や強いメンタルを持て、など「本人に変われ」と言っているんですよね。加害者が変わるべきなのに、被害者が変われというのが「気にしなくていい」ということですよね。
 また、私がエッセイや小説を発表すると「小さいことにいちいち引っかかることって大切ですね」と褒める意味合いで言ってくださる方がいます。でも私としては大切にしているわけではなく、引っかかりやすいだけ。でも同じような方は他にもいると思います。そういった人に「気にしないで強く生きていけ」というのはひどい。少なくとも私は「気にしていいよ」と言いたいです。

―社会側が変わるために、まず何をしていけばよいと思われますか。
「表明」することはよいと思います。雑談やつぶやくだけでもいいですね。例えば多数派に流されそうな時でも、ぼそっと「私はそう思わないけど」とつぶやくだけでも意味があると思うし、少なくとも頷かないとか、同調しないだけでもいいと思います。
ただ、「差別をなくす」というのは、そんなに単純なものではないと思っています。
例えば「ブス」という言葉をなくしたい、というわけではなく、実際には容姿に優劣はあると思います。ブスでも魅力的な顔はあるけれど、生きにくい現実というのは確かに存在します。経済力も、お金がなくてもその人なりに幸せに暮らすことはできますが、苦しい場面も出てきます。
差は確実にあるのに、それをなかったことにするのは違います。
差があることは前提に、それをもっとフラットに議論できる場を作っていくことが重要だと思います。

―ブスの自信の持ち方を発売して約半年ですが、どのような反応がありましたか。
 「ブスのエピソード」を持っている人が多かったのが意外でした。「ブスと言われたことがあって…」と話してくれる人でも、会うと結構美人ということも。書いた当初は一部の人にだけ届けばいいと思っていたのですが、自分に関係ないと思っている人はかなり少数派だということがわかりました。ほとんどの人に関係のある、すごく複雑で根深いテーマだと思います。

―やはりそういったエピソードを持つのは女性の方が多いですか。
男性でもハゲやおじさん、背が低いなどで同様のエピソードを持っていますよね。
 しかし、いわゆるフェミニズムに興味のある男性でもいまいち通じないな、と思うことは結構あって。問題に直面することが少ないのかなと感じました。単に「悪口を言われたので怒っている」と受け取られていることもありました。

小さな声でも大きな社会問題になる

―山崎さんは、女性だけでなく、男性に対する差別についても重点的に取り上げ、小説のテーマにされてきたと思います。
デビュー作『人のセックスを笑うな』では柔和な男性を主人公にしたのですが、文庫版の解説で高橋源一郎さんが「フェミニンな男性を肯定する」というようなことを書いてくださり「私の仕事はここにある」と感じました。以降、男性の多様性を肯定したり、弱い男性を描いたりすることを自分のライフワークにしています。
また、自分の周りにいわゆる「男らしい」男性があまり存在せず、家庭でも仕事でもどちらかというと女の私の意見が通りすぎているなと感じることが多くありました。また思った以上に男性が傷つき、傷つけていることがありました。性差別を考えるとき、「女性のことを考えよう」だけではなく、もっと複雑で難しい問題だと認識しています。

―性差別に関して状況が変わってきた部分もあると思います。
まずSNSの普及などで、小さい声でも大きな社会問題になる可能性があるというのが感じられるようになってきました。普通の人の小さな違和感も大事にしていいんだというのが共有されたように思います。またフェミニズムの盛り上がりにより、意見も言いやすくなり、耳も傾けられやすくなった気がします。

―今後書きたいテーマは。
経済小説を書きたいです。『リボンの男』も経済小説ですが、私にしか書けない小さい世界、お金に換算できない経済、雰囲気の経済などを書いていきたいです。
また、性差別と経済差別は複雑に絡んでいるなと考えるようになりました。主婦の差別はその最たるもので、女性だからというだけでなく、お金を稼いでないからというのが大きいと思います。

―ニュースイッチでは経済ニュースを主に扱っていますが、読者の女性比率は低いです。個々の好みの差はあると思いますが、経済の話は自分に関係ないと思っている女性が多いのかなと思っています。
 男性は普通に経済の話をしますよね。仕事でいくら動かしたとか。でも女性は雑談に経済の話が出てくることってあまりないですね。主婦コミュニティでもお金の話はタブーという暗黙の了解がありますし、たとえファッションの話であっても、高い洋服だと金額を言いにくい雰囲気だったりします。でも男の人は気にせず話している気がします。
 雑談で話題が出ると、気になったり調べたりするようになると思うので、やはり話せる雰囲気や環境などになっていくことは必要ですね。もっとお金のことを抵抗なく、気軽に話せる社会になればいいなと思います。

山崎ナオコーラ(やまざきなおこーら)
1978 年福岡県生まれ。2004 年会社員をしながら書いた『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞し デビュー。他の著書に『浮世でランチ』『カツラ美容室別室』『ニキの屈辱』『昼田とハッコウ』 『ネンレイズム/開かれた食器棚』『母ではなくて、親になる』『文豪お墓まいり記』など。

『リボンの男』(河出書房新社)定価1350 円(税別)

おとうさんはねえ、ヒモじゃなくてリボンだよ—「時給かなりマイナス男」の専業主夫・常雄が、野川沿いの道を3歳のタロウと歩きながら発見した、新しい“シュフ”の未来。

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COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局DX編集部
記者

「リボン」自体も、結束したりする機能的な力はヒモより弱いかもしれませんが、プレゼントを飾ったり、髪飾りになったりと人の心を明るくする役割に長けています。山崎さんのいう「ぼんやりした経済」と近い存在だと感じました。

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