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繊維メーカーの新たな競争軸、消費者の心掴む“かっこいいエコ”

繊維メーカーの新たな競争軸、消費者の心掴む“かっこいいエコ”

ファッション性、機能性とともに「エコ」をアピール(大直の「SIWA」)

化学繊維メーカーが材料や生産において環境に配慮している点を前面に打ち出している。一方で「環境に良い」だけでは、製品を買ってもらうのは難しい。ファッション性や機能性と「エコ」の両立を掲げることで、消費者の心をつかむ製品づくりを目指している。(取材・江上佑美子)

伸縮性でスポーツ開拓 消費者の心つかむ製品

帝人フロンティア(大阪市北区)が開いた、2020年秋冬向け展示会で、一風変わっていたのが和紙製品の「SIWA/紙和」のかばんやスリッパだ。和紙メーカーの大直(山梨県市川三郷町)が展開するブランドで、素材は帝人フロンティアが提供する使用済みペットボトル由来のポリエステル繊維「エコペット」を用いた和紙「ハードナオロン」だ。和紙の風合いや軽さと、ぬれても破れず、重いものを運べる耐久性を両立している。

「SIWA」ブランドの開始は08年。帝人フロンティアは10年から原料供給をしている。新しい取り組みではないが、近年の環境意識の高まりを背景に「エコ」を前面に出すことにした。帝人フロンティアの担当者は「エコというだけで製品は売れない。ファッション性を付与することで、『ジャパンテクノロジー』として発信したい」と期待する。

旭化成アドバンス(東京都港区)は、サステナブル(持続可能)素材ブランドの「エコセンサー」を、20年度から本格展開する。リサイクル糸などを用い、持続可能性や安全性に関する認証「ブルーサイン」「エコテックス」取得工場でのみ加工するなど、環境に配慮して生産している点が特徴だ。

「海外に比べると、サステナビリティーを理由に買う日本の消費者は少ない」(村山聖スポーツ・ユニフォーム事業部長)。エコセンサーの引き合いも海外からが7割を占める見込みだ。環境配慮に加え、軽量性やストレッチ性、耐久性といった機能を打ち出し、スポーツアパレルを皮切りに、アウトドア用途での展開も目指す。

東レはストレッチ素材の主力ブランド「プライムフレックス」に、リサイクルPET(ポリエチレンテレフタレート)原料を用いたシリーズを追加する。同社工場が排出するフィルムくずを再生しており、21年春夏シーズンから展開する。

東レはリサイクル原糸を使ったストレッチ素材を開発

これまでのリサイクルPET原料ではストレッチ性を出すのが難しかったが、ポリマー品質制御技術と紡糸技術を活用し、新たな原糸を開発した。大塚潤スポーツ・衣料資材事業部長は「スポーツテキスタイル用途で必須となっている高機能ストレッチ性を損なっていない」と強調する。

ペットボトル由来 繊維開発、課題はコスト

回収されるプラスチックのうち、ペットボトルは原料が均一であるため、リサイクルしやすい。自治体による回収システムもある。PETボトルリサイクル推進協議会のまとめによると、17年度の日本のリサイクル率は84・8%で、欧州の41・8%、米国の20・9%と比べても高い。

帝人がエコペットを開発したのは1995年。回収したペットボトルを破砕、ペレットにした後、ポリエステル繊維に加工している。

帝人フロンティアの日光信二社長は「25年間取り組んできて引き出しの多さはナンバーワン。『高付加価値のエコ』『とがったエコ』を打ち出したい」と、環境意識の高まりを追い風に、差別化を図る考えだ。

東レは19年9月、繊維ブランド「&+(アンドプラス)」を発足し、回収したペットボトルを繊維原料に用いる取り組みを本格的に始めると発表した。「従来のペットボトルリサイクル商品はとがったデザインや特別な機能の製品がなかった」と舟橋輝郎東レファイバー事業部門長は話す。

ペットボトルのリサイクル原料に含まれる異物の除去や、ペットボトルの洗浄技術を持つ協栄産業(栃木県小山市)と連携。多様な品種で黄ばみを除去したリサイクル繊維の生産に成功した。かねて協業しているユニクロで20年春夏シーズンから、同繊維を用いた速乾ウエアを生産する。

三菱ケミカルもペットボトル由来のリサイクルポリエステル繊維「エコルナ」を展開している。

ペットボトル由来の素材づくりを各社が進めている(帝人「エコペット」)

課題はコスト面だ。帝人の試算では、500ミリリットルのペットボトル800本から作ることができるTシャツは100枚。バージン原料を使う場合と比べると、現時点では価格上昇は避けられない。

アパレルも変化 「かっこいい」に知恵絞る

18年11月の国連環境計画(UNEP)の報告によると、ファッション業界は二酸化炭素(CO2)の排出量が世界全体の10%、水の排出量が同20%を占める。帝人フロンティアの日光社長は「19年の春頃から『環境対応』を、いろいろなところから求められるようになった。SDGs(国連の持続可能な開発目標)の影響ではないか」と見る。

東レの舟橋ファイバー事業部門長は「アンドプラス」発足について「狙うべき市場は(95年から09年に生まれた)Z世代。彼らは環境や社会に配慮したものを好む」と、若い世代の意識変化が背景にあると説明する。

国内アパレルメーカーの意識も変化している。三陽商会はタイヤやペットボトルなどのリサイクル素材や、環境負荷の少ない素材のみで衣服や雑貨を製造するスペインのエコアルフと合弁会社を設立、20年春から日本での展開を始める。

衣料においても糸くずなどのマイクロプラスチック問題が叫ばれ、エシカル(倫理的な)消費への関心も高まっている。それでも「環境に良い」ものの魅力に乏しく、価格が高い商品が消費者を引きつけるのは難しい。メーカー各社が「かっこいいエコスタイルの提案」(舟橋東レファイバー事業部門長)に知恵を絞る傾向は強まりそうだ。

日刊工業新聞2020年1月6日

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