「5G」iPhoneでニッポンの電子部品が独壇場になる日
第5世代通信(5G)時代が2020年から本格的に始まる。19年に米国、韓国、欧州の一部に加え、中国などが商用化を開始。日本も20年春に商用化が始まる。高信頼性の部品を世界に供給する日本の電子部品業界にとっても一大チャンス。5G対応スマートフォンの相次ぐ投入はもとより、5G基地局は東京五輪・パラリンピックを契機とした整備にも期待が持てる。(取材・山谷逸平)
【日本勢に追い風】
5Gスマートフォンや5G基地局が増えれば、高信頼性・高付加価値の部品の搭載個数が増え、日本勢の強い電子部品業界には追い風となる。「(日系の電子部品メーカーにとって)ここ3―5年のサイクルの大きなスタートに入る」(ゴールドマン・サックス証券の高山大樹投資調査部長)とみられる。
5Gスマホの広がりによるビジネスチャンスは多方面に及ぶ。まずカメラアクチュエーターだ。スマホ1台当たりの個数増加とアクチュエーター自体の高性能化が期待されている。背面カメラの「複眼化」は5Gスマホでも一層進展するとみられ、アクチュエーターの供給数も増える。高速大容量化の実現で、より高画質・高精細な画像や動画の撮影へのニーズが高まり、手ブレ防止機能やレンズの口径拡大への対応で高機能化される。
アクチュエーターの世界シェアが高いアルプスアルパインは「ローエンドは価格競争になる」(栗山年弘社長)として、ミドルエンド以上の市場で商機になるとみる。「コスト的にはどんどん厳しくなっている」(笹尾泰夫取締役常務執行役員)ためだ。
【優位性主張】
高周波部品では村田製作所が供給する、柔軟に折り曲げられる樹脂多層基板「メトロサーク」に市場の関心が集まる。これまで特定顧客向けに供給していたが、供給先を広げたためだ。中島規巨代表取締役専務執行役員は「競合するのは変性ポリイミド(MPI)の技術。ただ、ミリ波帯ではまだ特性差がある」と優位性を主張する。
5Gスマホへの期待は積層セラミックコンデンサー(MLCC)にも及ぶ。求められるのは小型大容量で損失特性の低さだ。村田製作所は長さ0・25ミリ×幅0・125ミリメートルの「0201」サイズのMLCCを開発し、20年春に量産する。静電容量は従来品比10倍の0・1マイクロファラッド(マイクロは100万分の1)と高容量化を実現した。
一方、5G基地局向けでは、大容量で高電圧対応のMLCCや高周波部品が求められる。村田製作所の井上亨代表取締役専務執行役員は4G端末から5G端末になることで、端末も基地局もMLCCの使用個数が「サブ6(6ギガヘルツ未満の周波数帯域)では10%増になる。ミリ波の場合は20%増くらいになるのではないか」とみる。
TDKの永田充常務執行役員は「高周波部品のバンドパスフィルターなどが大きな商機になる」と期待する。同社は19年10月、5G基地局のミリ波送受信回路部向けに、周波数を通過・制限する機能を持つ積層バンドパスフィルターを開発し量産を始めた。材料には挿入損失を低くできる低温同時焼成セラミックス(LTCC)を業界で初めて使用した。
【特性生かす】
高速大容量などの5Gの特性を本当の意味で生かせるのは、ミリ波帯だとされる。村田製作所の中島代表取締役専務執行役員は「ミリ波をブームにさせるトリガーはイベントの開催だ。基地局本数が(サブ6帯に比べ)非常に多く必要となるのでイベントごとの投資になる」と、東京五輪・パラリンピックのようなビッグイベントが普及のカギになるとみる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の内野晃彦シニアアナリストは「ミリ波対応端末をどこかのスマホメーカーが積極的に投入してくると数量的にはかなり上振れる可能性がある」と20年以降のメーカーの出方に注目する。
20年の5Gスマホに対する最大の関心事は、米アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」の最新モデルだ。内野シニアアナリストは「注目はミリ波帯の投入時期。ハイエンドモデルの一部で旗艦モデルとして登場する可能性がある」とみる。ただ、ゴールドマン・サックス証券の高山投資調査部長は「(既存の5Gスマホを含め)消費者が5G端末を購入したが、期待したほどではないと思ってしまうと状況が一変する可能性がある」として、「期待先行になっていないか注視する必要がある」とも指摘する。
<関連記事>「5G」「モビリティ」で電子部品どう変わる?大手メーカーのキーマンたちが語り合う