日本が一歩リード、自動運転シミュレーションの行方
自動運転技術の安全性をいかに評価して担保するか、世界で模索が続いている。現在有力なのは、現実的に起こりうる交通シーンやシナリオを書き出し、シミュレーターや実車で再現して検証するアプローチだ。日本だけでなく、ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)の「PEGASUS(ペガサス)」プロジェクトにも採用された。安全性の評価技術はすべての基盤になる。日本は貢献できるか。(取材・小寺貴之)
【どの国も模索】
「日本はいま優位なポジションにいる。このままシミュレーターでイニシアチブをとりたい」と、内閣府の葛巻清吾戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転担当プログラムディレクター(PD)・トヨタ自動車先進技術開発カンパニーフェローは気を引き締める。SIPとして22カ国・地域の専門家を招き、自動運転の法整備や開発要素について協議した。安全性評価はまだどの国も模索中だ。多様な交通シーンで安全性を検証する必要があるものの、どれだけのケースを検証すれば十分なのか答えはまだない。
各国で共通するのは実際の交通環境から事故や交通シーンを集めて、シミュレーターやテストコースで再現して検証するプロセスだ。米バージニア工科大は事故手前のヒヤリハット事例のデータベースをもつ。運転映像や車速、加速度などのデータを元に危険シーンをシミュレーターやテストコースで再現する。同大のミシェル・チャイカディレクターは「ダイナミック(動的)なシナリオ検証が必要」と説明する。
【検証手順は協調】
ドイツBMWiのペガサスプロジェクトでも多様な交通シナリオを集めるデータベースが提案された。車両や事故のデータからシナリオを作りデータベース化し、実車などで検証する。葛巻PDは「求める安全性基準は国によって変わりうるが検証プロセスは協調する」と説明する。
具体的な評価ツールの整備も進む。各国で実環境に近いテストフィールドが整備された。中国は20以上の都市がテスト環境を提供し、完成車54ブランドが利用する。日本も東京臨海地域や高速道路をテストフィールドとして提供してきた。
そしてSIPとして評価シミュレーターを開発した。ビルでの電波反射など、シミュレーションの難しい要素を再現した。カメラはソニーセミコンダクタソリューションズ(神奈川県厚木市)と日立製作所、レーダーはデンソーと立命館大学、高機能センサー「LiDAR(ライダー)」はパイオニアが担当。
開発をまとめた神奈川工科大学の井上秀雄教授は「歩行者の認識性能など、より現実に即した評価ができる」と説明する。評価シミュレーターでは日本が一歩リードした形だ。葛巻PDは「評価法を押さえると製品開発も優位になる」と期待する。
そして安全性評価は国際共同事業に発展する可能性も出てきた。欧州委員会共同研究センターのファブリツィオ・ミナリーニ氏は「市販後も車からデータを集め、改善し続けることが重要。データや知見はグローバルにシェアすべきだ」と呼びかける。国際プロジェクトとして安全性に関わるデータを集め、各国の規制や標準化の調和を目指す。安全な自動運転社会の実現は各国の規制当局共通の思いだ。日本発のシミュレーターが貢献できるか注目される。
【追記】
自動運転では機能をONにできる条件や領域(ODD)はメーカーが設計します。車両がODDに入っていること、OODの外に出そうなことを車両は検知しないといけません。ODDが高速道での渋滞なら、車速と走行レーン、周辺車両の速度、渋滞発生情報で、走っている場所が高速なのか、渋滞が起きているのか判断できるはずです。渋滞発生情報がなくても、周辺車両に囲まれて速度が遅ければ渋滞と判断できるはずです。仮に渋滞自動運転機能の車が複数のメーカーから発売され、A社は渋滞発生情報をトリガーにし、B社は周辺環境で判断し、C社は実は車速と走行レーンだけで判断していたりすると、技術を説明されたところでドライバーは混乱しかねません。人と機械が運転を替わるレベル3ではセンシティブな問題になるはずです。渋滞自動運転くらいなら混乱が生じないように、当局が各社の歩調を合わせられますが、より複雑な交通環境に自動運転を適用していくと、歩調あわせはより困難になっていきます。