鉄道車両をもっと軽量化したい!マグネシウム合金は切り札になるのか
マグネシウムは、実用金属の中で最も軽量であり、優れた比強度を示すことから、CFRPと並んで輸送機器用の新たな構造材料として注目されている。しかし、汎用マグネシウム合金(Mg―Al系合金)は、固相線温度(固体のみが存在する最高温度)よりも高く昇温すると燃えてしまう材料と考えられてきたため、難燃性が必須である鉄道車両部品としての利用は困難とされてきた。
産業技術総合研究所(産総研)では、この問題を解決するため、汎用マグネシウム合金にカルシウムを添加して発火温度を飛躍的に高めた「難燃性マグネシウム合金」を1990年代に開発した。この合金はレアアースを含まない低コスト型の合金であり、小型部品を中心に実用化が進んでいる。
現在、NEDO委託事業「革新的新構造材料等研究開発」(2014―22年度)により、難燃性マグネシウム合金展伸材を用いた「鉄道車両構体」を製造し、鉄道車両の抜本的な軽量化を実現するための研究開発を進めている。産総研はこのプロジェクトに参画し、現行の新幹線車両に用いられている高強度アルミニウム合金(A7N01合金)に匹敵する強度と延性を、難燃性マグネシウム合金にバランスよく付与するための研究開発を実施した。
そこでは、難燃性マグネシウム合金を鋳造する時に生成する晶出物の形状を制御する熱処理技術を開発した。この熱処理によって晶出物は球状化・硬化する。熱処理に供した難燃性マグネシウム合金押出材は、高い強度を保持しつつ高い延性を示すようになり、A7N01合金に匹敵する強度と延性の両立が実現できた。
さらにこのプロジェクトでは、難燃性マグネシウム合金展伸材を用いた高速車両構体の製造技術の開発を目標として、鉄道車両構体の部分的な試作をプロジェクト参画機関と共同で進めている。17年度は、現行新幹線車両と同一の断面形状で長さ1メートルの部分構体を試作し、想定したアルミニウム構体よりも約28%軽量化できることを実証した。
今後は、さらに長尺の車両構体の試作や性能評価試験をプロジェクト参画機関と共同で進める予定である。このプロジェクトを通じて、難燃性マグネシウム合金の本格的な適用によって新幹線などの高速鉄道車両を抜本的に軽量化し、高速化、省エネ化に貢献したいと考えている。
(文=千野靖正<産総研構造材料研究部門軽量金属設計グループ研究グループ長>)<関連記事>
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